迷い子の叫び声

 エルザが去った後、早々にナツとマーリン対ラクサスのゴングは鳴った。2人がラクサス目掛けて攻撃を仕掛けて、ラクサスはそれらを躱しながらもたまに喰らい、何倍もの威力で反撃する。
 そして。ラクリマの発動まで間もないことに焦るラクサスに向かって、ナツは不敵に笑ってやる。

「そんなに焦んなよ、ラクサス。どうせ何も起きねぇから」
「何だと?」

 ラクサスと同じく眉をひそめるマーリン。焦燥の中、お前は何を言ってるのかと疑問の色が見える。

「街を壊したってお前には何の得もねえ。今更引くに引けなくて焦ってんだろ?」
「……、」

 ああ、と。ナツの言葉を聞いていたマーリンの瞳が微かに揺れた。ナツの言いたいことに気付いてしまったからだ。


 ナツは、コイツは。

「大丈夫だ。エルザが止めてくれる。意地を通すのも楽じゃねえな!!ラクサス!!」


 こんなこと≠したラクサスのことを、まだ、しっかり信じている≠フだと。


「てめえが知ったような口を聞くんじゃねえ!!」


 その言葉に癇癪を起こした様に暴れるラクサスの相手をし、お互いに殴っては蹴ってを繰り返していれば。
 街から爆発音と雷鳴が聞こえてくる。

 そうして表示される、神鳴殿機能停止≠フ文字。つまり。

「な?」
「あはっ。流石だよ、皆!」

 神鳴殿。
 すべて破壊されたため、機能停止。

「ギルドを変える必要がどこにある?みんな同じ輪の中にいるんだぞ。その輪の中に入ろうとしねェ奴が、どうやってマスターになるんだ!?ラクサス!」
「こんなことしてないでさあ。もっと視野を広げなさいよ、アンタは、独りになろうとしすぎだよ!!」

 体中傷だらけで全身に汗を流しながらも不敵に笑ったナツと、先程顔を狙われた際に敢えて逸らされ殴られた腕を抑えつつ、ばかだなあと煽るように笑うマーリン。
 何度沈めても立ち向かってくるふたり。
 それを視界に入れた、ラクサスは。勿論、気分の良いものではない。


「オオオオオオオッ」

 吠える、吠える。吠える。

「支配だ」

 ゆらり。
 迷子のドラゴンが、吠える。


「いい加減にしろよラクサス。フェアリーテイルはもうお前のものにならねえ」
「なるさ。そう、駆け引きなど初めから不要だった。すべてをこの力に任せれば良かったのだ!!圧倒的なこの力こそがオレのアイデンティティなのだからなァ!!!!!」

 血走った目で、バリビリと雷を放出させて。止まることない怒りを吹き出させる、ラクサス。

「馬鹿だねぇ!チカラで全てを解決するなんて、子供のすることだって、本当は分かってンだろう!!?」
「それをへし折ってやれば、諦めがつくんだなラクサス!!!!」

 それに対して、マーリンとナツは立ち向かっていく。
 しかし。実際のところ、S級でありギルド最強だと謳われるラクサスが押していた。マーリンも良い所までは行くのだが、最終的には男女のチカラの差やガタイの差に押し負けてしまう。素早さで懐に入り込めても、肝心の威力が劣ったのだ。
 ラクサスの技をモロに喰らい早々にへたり込んだナツを庇うように、マーリンはその前に出る。

「こんなにっ、はぁ、差が出るもんかい!?」
「ハッ!だから言ったろォ!?“勝たせてやってた”ってなァ!!」

 ぐんっ、と足を掴まれたと思えば、ナツの方までぶん投げられる。痺れた体を起こそうとしているナツに被さるように落とされてしまう。

「ッぐう!」
「くそ…」
「鳴り響くは召雷の轟き……天より落ちて灰燼と化せ」

 辛うじて、耳が音を拾った。詠唱が聞こえる。慌てて立ち上がろうとするも、間に合わない。


「レイジングボルト!!!!」

 ドオン!



 眩い光の中落雷はアタシ達へ直撃し、粉々に。

「このギルドの最強は誰だ?ハハハハッ!粉々になっちまったら答えられねぇか!!」
「仲間…じゃなかったのか?それを消して喜んでるとァ、どうかしてるぜ」
「ア?」

 ……と思いきや。

「まあ消えてねえがな。コイツを消すのはオレの役目だからよォ」
「けほっ、けほっ」
「う、ガジル…」

 ガジルの参戦により、アタシ達は無事だった。どうやら彼はついでにアタシのことも助けてくれたようだ。危なかった。

「気に入らねぇがやるしかねぇだろ。共闘だ」
「冗談じゃねぇ!!ラクサスはオレが倒すんだ!!つーかお前となんか組めるかよ!!」
「よく見ろ。あれがテメェの知ってるラクサスか?」

 視線の先にいる、男。
 ガジルの言ったとおり。狂ったように吠える男を、かつての彼だと認めるわけにはいかなくて。

「…ッ」
「……耳の痛い話だねぇ。確かにアレはもう、殴って気絶させてでもしてやらなきゃ止まらないだろうねぇ」

 そうして。一次休戦と言わんばかりに手を組んだナツとガジル。そしてマーリン。この三人でラクサスの相手をすることになった。


 鉄と炎と氷を纏う手が足が、雷を纏う男に向かって行く。交わされすり抜けられ、止められて。反撃されて、仕返して。咆哮を、剣を槍を、舞を繰り広げていく。
 瞬きですらさせないように怒涛の攻撃を三人で落としていった。はずなのに。

「三人合わせてこの程度か?ドラゴンスレイヤーが聞いて呆れる」
「バカな!いくらコイツが強ェからって、竜迎撃用魔法をこれだけくらって……ありえねぇ!」
「そいつは簡単な事さ。ジジィがうるせえからずっと隠してきたんたがなあ。特別に見せてやろう」

 ギギッと伸びた、ラクサスの八重歯。牙、つまり…!!

「ッ!」

 今ここでそれを出すのか、と唯一“知っていた”マーリンは息を呑む。そうして。これから来るであろう衝撃に備えて、こちらも魔法を発動させる。迎え撃てるとは思っていない。でも、少しでも威力を軽減するために、やるしかない。

「氷竜のっ」
「雷竜の……」

「お前もドラゴンスレイヤーだったのかラクサス!!!」
「咆哮!!!!」
「咆哮!!」

 ドガガガッ。バキバキバキッ。
 雷の落ちる音と、氷の砕ける音。

 凄まじい威力の雷を喰らって、吹っ飛ぶように後退る。軽減して、これだ。とんでもない威力だこと!!

「いい加減くたばれよ。お前らもエルザもミストガンも。ジジィもギルドの奴等もマグノリアの住人も……全て消え去れぇえッ!!」


 ドッッ。


 凄まじい魔力を浴びる。そう、この感じは。
 術者が敵と認識したものすべてが標的。マスターマカロフの超絶審判魔法。

「ふぇありー、ろう……!?」

「やめてーーーっ!ラクサス!」

 フェアリーロウの発動に驚いていれば!レビィがやって来た。

「れび…?」
「なにしにきた!」

 麻痺した体を無理矢理にでも動かして立ち上がろうとするが、流石にモロに喰らってるとヤバイみたいで。ガクリと膝を付いて、立ち上がれない。嗚呼、レビィを、守りたいのに。ナツを、ガジルを、鼓舞しなきゃなのに!!


「マスターがっ、あんたの、おじいちゃんが……

 危篤なの!!!!」


 は。


「だからお願いっ!もうやめてっ!!マスターに会ってあげてぇっ!!ラクサスッ!!」


 思わず固まるラクサス。そして、言葉の意味を理解し驚き、焦るマーリンやナツ。

 レビィが、何か言った。何か、叫んでいる。きとく、……きとく。危篤………?そんなまさか、と喉が震えた。

 その時無意識的に脳裏を過ぎったのは。かつて、ラクサスとマスターと共に見上げたパレード。そして、初めて参加したパレードで共に手を掲げたこと。パレードが終わって二人して駆け付ければ、マスターが凄かったぞ!って笑ってくれたこと。


「ラクサス…!」


 アタシは、咄嗟にその名を叫んでいた。
 後で思い返しても。きっとこの場この時、ラクサスの気持ちを一番理解していたのはアタシだっただろう。

 それでも。


「丁度いいじゃねえか。これで、このオレがマスターになれる可能性が再び浮上した訳だ!」


 それでも止めない、止まらないラクサスに腹が立つ。
 嗚呼。嗚呼!アタシには止められない…!!



「フェアリーロウ!!発動!!」

 光が、全てを呑み込んだ。

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