信じる心を持つ者

 カルディア大聖堂に滞在していたラクサスの元へやって来たミストガン。彼らが一撃二撃と喰らわせ合って、一息。さらに一撃が繰り出されると思われた、そのタイミング。



「「「ラクサス!!」」」

 大きな音を立てて扉が開いた。


「エルザ!」
「ナツ!マーリンも!」
「やあ、久しぶりだと話したいとこだけれど。そうも行かないみたいだ」
「ああ」
「誰だアイツ…」
「ミストガンだよ、ミストガン」
「彼がミストガン…?」

 そうして。やってきたと思えば騒がしい彼らが誰であるかに気付き目を細めるラクサスと、目を見開くミストガン。

「アァ?……マーリンに、エルザか」
「マーリン?……ナツに、…、」

 “エルザ”の名前を零す前に、狼狽えた様子で顔を隠そうと体を動かしたミストガン。ラクサスがそんな隙を見逃すはずがなく。

「スキあり!!」
「ッッ!」

 そうして繰り出されたラクサスからの攻撃によりふわりふわりと宙を舞う布。それよりも、どうやらナツとエルザはミストガンの顔に釘付けだった。どうして、と。二人の顔が困惑に満ちる。

「おまえ…」
「ジェラール…?生きて…!」
「……あら?知り合い?」

 はてさて楽園の塔での“ジェラール”とエルザとの一件を知らないマーリンは、ただごとではない二人の様子に僅かに驚きつつも呑気に見守っていた。

「ど、どうなってんだ!?ミストガンがジェラール!!?」

 そうしていれば、気まずそうにエルザを見たミストガンが、エルザに呼ばれたその“名”を否定する。
 “ソレ”は“自身”と違うのだと。

「エルザ…あなたにだけは見られたくなかった。私はジェラールではない。その人物は知っているが、私ではない」
「え…?」

 早々に戦略的撤退を選んだらしいミストガンが、最後に一目マーリンを見た。その視線の中に「すまない、任せる」という意味がこもっているのを理解したマーリンは、おそらくミストガンの“事情”と何か関係があるのだろうと結論付けた。それから、呆れたように笑って、まるで早く行けと言いたげに追いやる様に手をしっしと振った。

「オイ!!」

 ナツの呼ぶ声も置いて、ミストガンは姿を消した。

「だー!!ややこしい!後回しだ!!ラクサス勝負しに来たぞ!!エルザ、マーリン!いいよな、オレがやる!」
「アイツのことは後回しにしてくれると助かるよ。さて、エルザ。とりあえず何か事情があるみたいだけれど、ミストガンのことは後で、…エルザ?」
「ジェラー、ル」
「エルザ!」


 瞬間。
 眩いほどの落雷が、エルザに落ちてくる。


「…ア?」

 しかし、エルザは無傷だ。瞬時に雷鳴に気付いたマーリンがエルザの前に手を翳し、氷の盾を作ったのだ。

「重い、雷だこと」

 氷の盾で守ったはずなのに、微かに感じる手のしびれに目を細めるマーリン。そうして、マーリンに守られつつ今も尚呆けた顔をしているのエルザを、ラクサスは鼻で煽ると共に煽る。

「ハッ。似合わねぇツラしてんじゃねぇよ、エルザ。……ア?マーリン。……ホラ、来な!」

 マーリンとラクサスの視線が交わり、お互いがお互いに警戒を高めあいいつ踏み出そうかと読み合いをしていれば。

「ラクサスーー!!マーリンも!!オレが相手するって言ってんだろ!!このやろォ!!」

 お前の相手はオレだと、ナツが叫ぶ。
 しかし、そんなナツを嘲笑うように煽るように鼻で笑ったラクサス。

「ん?いたのかナツ」
「んが!ぐぬぬ、オレと勝負しろやぁあ!ラクサスゥ!!」
「テメェのバカ一直線もいい加減煩わしいんだよ。うせろ、ザコがっ!!」

 片手を炎で燃え上がらせつつ走り出したナツに、うざったそうに眉を顰めるラクサス。ラクサスからの一撃を避けたナツは、そのまま宙で体制を変え蹴りを入れた。しかし、それさえも片腕で遮られる。その片腕に振られ飛ばされたナツは、地に足を付け体制を整える際に蹴りを喰らう。

「逃さねぇぞコラ」

 その勢いのままナツの腕を掴み、その顔目掛けて拳を奮うラクサス。数発喰らった末、自身の腕を掴むラクサスの腕を掴み返し、反撃するナツ。その顔は、不敵に笑っている。

「逃げるかよ。テッペン取るチャンスだろ!!」

 お互い殴り合い、蹴り合い、炎が火花を散らし雷が雷鳴を轟かせる。ラクサスは、ナツの頭を思い切り足で踏みつぶした拍子に外れた腕をそのまま振り払い吹っ飛ばす。
 吹っ飛ばされ体制を崩したナツの頭を押さえつけ無理矢理前戦に出てきたエルザは、先程の呆けた顔からガラリと変わりラクサスを睨みつけている。

「ラクサスッ!」
「アタシら抜きで、楽しそうじゃない!?」
「エルザ!マーリン!」

 混乱が酷く呆けていたエルザの頬を軽くビンタして無理矢理意識をこちらに戻したあと軽く現状を説明したマーリンは、エルザが大丈夫そうだと察するとそのまま氷の滅竜魔法を纏い足払いでラクサスの足元を狙った。

「あの空に浮いてるもの、神鳴殿だな?」
「ああ、マーリンに聞いたかあ?新しいルールさ、オレも本当は心が痛むよ」
「貴様!!」
「あと2分だ」

 ニヤリと嗤うラクサスは、やって来たエルザの剣を雷魔法で防ぐとそのままマーリンの足を掴みエルザの方へぶん投げた。咄嗟に剣を避けるエルザと、吹っ飛ばされつつも頭は冷静なマーリンは、咆哮より威力の低い冷気をまとった吐息で空気を操りくるりと回転しエルザを避ける。
 飛ばされつつも態勢を整えたマーリンは、片手と足を地面に付け後ろにずっていく。すぐさま反撃するため、空いた方の手をラクサスに向ける。

「っ御丁寧に生体リンク魔法まで仕掛けて、手が込んでるねぇ!?」

 ラクサスのもとへ氷の茨が伸びていく中、マーリンをすり抜けてラクサスの元へ向かうエルザ。

「“マスター”を相手取るんだ、そりゃあこのくらいやらなきゃなんねぇだろ?」
「卑劣な!!」

 ラクサスへ蹴りを入れるが、その足を掴まれ雷を喰らうエルザ。しかし、雷帝の鎧で防ぎきった。

「フン、そんなものでオレの雷を防ぎきれるとでも?」
「なにラクサスとやる気マンマンなってやがるエルザ!マーリン!こいつはオレがやるんだ!!」

 ムキー!と地団駄を踏むナツに目を向けたエルザは、何かに期待するように不敵に笑った。

「信じていいんだな?」
「へ?オ、オイ!どこ行くんだよ!……まさかお前、神鳴殿を止めに……!」

 エルザのしようとした事に気付いたナツは、エルザを止めようとして躊躇う。そんな姿を、笑う声。

「はははっ!!無駄だァ!1つ壊すだけでも生死にかかわる!!今この空には300個のラクリマが浮いてるんだぞ!時間ももう無い!!」

 しかしそんなこと関係ないと。覚悟を決めた緋色の瞳が、ラクサスを見つめる。


「全て同時に破壊する」


「っ不可能だ!!できたとしても確実に死ぬ!!」

 エルザのその力強い言葉に、ラクサスは一瞬息を詰めた。強かで真っ直ぐな緋色の瞳に吸い込まれるような感覚。
 それでも、もう。ラクサスは止まれない。

「だが街は助かる」

 そう言い残して、ナツとマーリンを信じて去ろうとするエルザ。

「ラクサスを止めておけ、ナツ!マーリン!」
「てめぇ、ゲームのルールを壊す気か……」
「ルールもなにも、もう無いんじゃないかい?」

 マーリンはラクサスから目をそらさずに、背を向けて走っていくエルザに告げる。自身は残る、と。

「アタシは残るよ。こんな馬鹿な事をしたコイツに、何発か入れてやらないと気が済まないからねぇ」
「ふ、ああ。構わない。……任せるぞ。マーリン、ナツ」
「こっちも信じてもいいんだな、エルザ。可能か不可能かじゃねえぞ!!お前の無事をだぞ!!」

 頷くマーリンとナツを信じて、エルザはカルディア大聖堂を後にした。




 さて、と小さく息を吐き。改めてラクサスを見据えるマーリンと、その横に並ぶやる気満々のナツ。


「アタシの氷くらいになると、アンタの雷は通さないからねぇ。良い勝負になるといいが…改めて決着付けようじゃない?アタシと、ラクサス。どちらが強いか」

「ハン、生意気言ってんじゃねぇ。そもそも何年前の話をしてやがる?…お前が俺に勝ってるんじゃねぇ、勝たせてやってたってことを、分からせてやるよ!!!!」

「ウガー!オレを無視して進めんじゃねぇ!ごちゃごちゃごちゃごちゃめんどくせーな!オトナってヤツはッ!
 テッペン取るには拳があれば、ジュウブンだろ!ハハッ、燃えてきたァ!!!」



 街を巻き込んだバトル・オブ・フェアリーテイル。
 最後の戦いが、始まった。

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