まだ青かった頃の記憶

「さて。アタシはアイツを止めなきゃいけないから行くけど……ってルーシィは動けそうにないね、休んでな」
「うん、動けない……」

 マーリンが話してる合間にへたり込んでしまったルーシィは、あれ?と首を傾げる。ちなみにロキはルーシィの魔力を心配して早々に立ち去った。

「黄道十二門を二体も使ったからね」
「ああ、そりゃあ体に負荷が来てるだろうから、良い子で大人しくしてるんだよ。ハッピーも、ね」
「あい!ルーシィはオイラに任せて!」
「んふふ、ああ。頼んだよ、ハッピー」

 流石にこれ以上はキツイだろうから大人しくしていろと諭したマーリンは、それじゃあ、と二人に背を向ける。

「気を付けて。マーリン」
「ああ、アイツぶん殴ってくる。いってくる」

 そうして。ガス欠なルーシィに対しまだまだ元気なマーリンは一人と一匹と分かれ、フリードを探しいると。大きな魔力が消えたあとフリードが倒されたと術式が伝えたため、早々にカルディア大聖堂を目指していた。すると。

「今の魔力……ミラか?」
「っお?マーリン!!」
「ナツ、無事出れたみたいだね。流石はレビィだねぇ……さて、ラスボスは目前、ってワケね」

 無事ギルドから出られたナツと合流し、二人はマグノリア中心部であるカルディア大聖堂を目指す。

「マーリンが言うからこっち来たけどよぉ、なんの根拠があってカルディア大聖堂なんだ?」
「……ふふ、秘密だよ。でも、そうだねぇ」

 敢えて言うなら、と喉で笑ったマーリンは。

「アタシは確信して言えるんだよ、ラクサスは彼処に居る≠チてね」
「ふぅん?マーリン、相変わらずラクサスのことよく知ってんなあ」

 答えになってない答え。それでもそれ以上は聞かないナツに、きっとそこまで興味はなかったんだろうと笑ったマーリンは。続いてナツの告げた、相変わらず∞ラクサスのことをよく知っている≠ニ言う言葉に、なんだかくすぐったくなる。
 だって。昔からアイツは、何か大きな決断をする際に、何か迷っている時に、無意識に彼処に行くのだとアタシは知っているから。


「…まあ、アイツとは付き合いが長いからねえ。それより、時間が惜しい。急ぐよ」
「おう!!あ!競争しようぜ!どっちが先に着くか!」
「ふ、相変わらずだねぇ。いいよ、乗ってあげる。……敗者は、ステーキでも奢るってことでどうだい?」
「サイコーだぜ!!」


 こんな時でも、どんな時でも。ラクサスを、仲間を信じている。楽しむ気持ちも、遊び心も
本気も、いつだって忘れない。そんな相変わらずなナツの提案に乗ったマーリンは、グッと足に力を入れた。


 □ □ □


 駆けていくと流れていく景色に、かつての記憶が巡ってく。


 あれはまだ、アタシもラクサスも若くて。S級になる前くらい。……そう。ちょうど、ラクサスの父親であるイワンさんが、破門にされた頃。アタシたちは、そう。付き合っていた。
 ……告白はラクサスからだ。と言ってもそんなに可愛い告白じゃなかったれど。まあでもその時のラクサスの言葉は、アタシだけの秘密ってことで。

 話を戻して。その頃のラクサスはひどく不安定だった覚えがある。俺はマカロフの孫じゃない、イワンの息子じゃない、ラクサス、なんだ≠チてのが口癖だった。自分で自分の首を絞めているように見えた。そして、何より強くなる≠アとに固執していた。

 まぁだからといってその頃の彼はまだ根が優しい人だったから、非人道的な事をしていた訳じゃない。少しトゲが刺さるような…乱暴な物言いが増えただとか、なんだか依存のような執着のような愛情が垣間見えるだとか。そんな、ちょっとしたことの積み重ね。
 今のアタシなら客観視してああ思春期反抗期のグレね≠ネんて言って比較的マシに見れるだろうけど、当時のアタシにはラクサスからの束縛や乱暴な物言いがキツかった。

 そうして、アタシから別れを告げてアタシたちは終わった。

 幼馴染みから彼氏彼女になって、拗れて別れて。気まずい気持ちもあって、その後アタシはあまりギルドに寄らなくなった。
 しばらくしたらミストガンとも知り合ったりして、そちらを構うようになって。……それからはもう、ラクサスとまともな会話をしていなかった。

 だから、まさかラクサスがこんなことをするだなんて思っても見なかった。いつか爆発するんだろうなあくらいに思っていたら、とんでもないこと起こしてやがるの。




「まったく、昔から変わらないんだねえ」

 なにより誰よりフェアリーテイルを思ってるはずなのに、こんなことして。

「不器用、だなあ」

 ラクサスは昔から、何かに迷ってる時や悩みごとことがある時には必ずカルディア大聖堂に行く。それを知ってるのは、おそらくアタシだけだ。



 まったく、自分の首を絞めるのが上手いんだから。

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