最強の名は伊達じゃない
フリードを探して街を駆けるマーリンだったが、しかし。街を探すものの、中々見つからない。残り時間的には、向こうからやって来ても良さそうだけれど、なんて考えていれば。
ドゴンッッ!ガッ!!
建物の上から、何かの壊れる大きな音。それと、強い魔力の気配。
それらに耳を澄ませて、くん、と鼻を鳴らして。瓦礫の崩れた土埃と、ルーシィと、ロキのにおい。それから。
「みーーつけた」
□ □ □
ビックスローの目を見てはならないと言われたルーシィは咄嗟に目を瞑り顔を背けるものの、目を瞑りながらの戦闘は中々に苦戦を強いられる。そう、普段使える目≠ゥらの情報が無くなってしまうと、対応出来るものも出来なくなってしまう。
そうして、ビックスローの操る人形たちがルーシィたちに向かってきた。避ける隙もなくやられてしまう二人。しかし、ルーシィとロキの絆により、一瞬の隙をついてビックスローを捉え、倒した。
……と思われたが、しかし。
「っルーシィ!」
「えっ?」
ガン!ガッ!!
倒したと思ったビックスローが這い上がり動かしたソレは、ルーシィに当たる前に何か≠ノより弾き飛ばされ……凍りついた。
「あぁ?クソ、当たってねえじゃねぇか!!」
思った音とは違う音が耳に入り、顔を顰めるビックスロー。衝撃により生まれた煙が、ルーシィ達を包む。
「ふむ。アタシはフリードを探してたんだけどねぇ。」
そびえ立つ氷の盾。凍り付き、落ちていくビックスローのベイビーたち。そして、凍えるような冷気。
それらを作り出した人影がゆらりと揺れて、煙が、晴れる。
「引いたのは、アンタかい?って。瀕死じゃあないか」
目を瞑りつつもニヤリと笑ったマーリンにロックオンされたと理解したビックスローは。
「っげ!」
それはもう、嫌そうな顔をした。
それとは反対に嬉しそうな声を出したルーシィとロキ。
「その声、マーリン!?」
「久しぶり、だね。マーリン」
「ああ、アタシだよ。まだアイツと目を合わせちゃいけないよ。……にしても、ロキかい?なんだか、気配が違うね。また詳しく話そうじゃないか」
殺伐とした戦場だったはずだが、今はもうマーリンの独壇場。完全に、空気を変えられた。
「それにしても。げ≠セなんて酷いねぇ。……仲良くしようじゃないか、なぁ?ビックスロー」
「っお断りだっっ!!」
そう言って、ビックスローのいる場に手のひらを向けたマーリン。そして、その手のひらから繰り出されるは、氷魔法の連撃。
マーリンが手を動かすたびに飛び出て来る、氷から作り出された攻撃。怒涛の攻撃に、ビックスローは大きく舌を打ちベイビーを動かし対応する。
初めは、速度の優位なツバメ。目を目掛けて飛ぶヤツらに視界を錯乱させられたと思えば、辺りが吹雪いてくる。どうやっても視界の悪い環境に置きたいのを理解し、まあそうだよなぁ!と嗤う。
寒さに体力を取られるのが分かっていたので、時間を掛けずに倒すことに思考をチェンジする。マーリン相手に遊ぶなんてことは出来ないと、長年の付き合いの中で理解しているので。さらには足元に絡みつき邪魔しつつ噛み付いてこようとするオオカミとライオン。いつの間に間合いに!なんてハッと気付いた時には、もう遅い。
足から徐々に、体が凍り付いていく。
「ックソ!ベイビー!!」
「ああ、あまり暴れない方が良いよ、怪我するからねぇ。それと、アンタのベイビーは、大方潰してるよ」
「はあ!?ンなのまた新しく、」
「ふふ。そんなの何度も落とせば良いって、分かんないかい?……さて、ビックスロー」
吹雪いてる中、目を瞑りつつも満身創痍なルーシィとロキを吹雪に巻き込まないように避難させて。凍えるような寒さの中、平気な顔をしてビックスローと対峙するマーリンは、尚も目を瞑ったまま。しっかりとビックスローの方へ顔を向けて、ニッコリと笑う。
それはもう、冷たく美しい笑みで。
ゾッッと、寒気がする。
冷気だけでは無い、何か。
そう、それはもう、冷ややかな怒気。
「アタシを怒らせるのが、上手いねえ。……アンタらは」
ヒュオオ、と冷気が漂う。
パキパキと、体が凍り付いていく。
「ッ!!」
「寝てな」
真っ青になったビックスローは一瞬、これは無理だと戦意喪失してしまった。
格の違いを見せ付けられた。
そう、不覚にもそんなことを思ってしまった。圧倒的強者を前に、体は動かなかった。その隙に体は氷漬け。
そうして。ルーシィが体力を削っていたこともあったが、ビックスローとの戦いはマーリンの圧勝で幕を閉じたのであった。
「うわぁ……相変わらずだね…」
「ひぇ……こわ…つよ……!一瞬じゃん!」
「ふふ、それより見て。ルーシィ。吹雪の中に映える愛の光を」
「えーと…」
「でぇきてぇるぅ」
「巻き舌風に言わないのっ!」
ちなみに。それを建物の影から見てしまったロキとルーシィは、マーリンの強さと容赦の無さに軽く引いた。あとルーシィは、ロキの茶番もしれっとツッコんでしれっと流した。
S級ってこんな化け物みたいなのばっかりなの??なんて思ってしまったのは、ルーシィだけの秘密である。