自由気侭な最強魔道士

 此処は、マグノリア一大きな魔道士ギルド。フェアリーテイル。大きなギルド内にて、食事をする者や読書をする者。喧嘩をしたり暴れたりする者といつものように賑やかな空気の中、一人の魔道士が帰還した。
 慣れた手つきで、任務完了のハンコを押された依頼書をミラに手渡すとカウンターの椅子に腰掛けた、その女。

 フェアリーテイルS級魔道士の一人。
 マーリン・クロディオン。


「ただいま、マスター。ミラ」
「おお。おかえり、マーリン」
「あら、おかえりなさい!今回は早かったのね?」
「ああ、楽勝だったよ。それより、何だか久々に見る顔も見えるな」

 そんなマーリンの声に答えるように、エルザがカウンターに腰掛けた。

「久しいな、マーリン」
「ああ。久しぶり、エルザ。仕事は順調かい?」
「ああ、お陰様でな。お前の方も順調そうだな」
「ふふ、まあね。……ああ、ミラ、いつものワインお願い」
「はーい、ワインね!ちょっと待ってね」


 裏に入っていったミラを待ちつつエルザと話すマーリンを見つめる視線が、一つ。ギルドフェアリーテイル期待の新人魔道士である、ルーシィだ。

 ばちっ。

 …と、ルーシィの瞳とマーリンの瞳が交わる。
 わ!やば!見てたのがバレた!と慌てるルーシィに、マーリンはミラから受け取ったワイン片手にルーシィの隣に座る。

「新入りかい?アタシはマーリン、よろしくね」
「わ、えっと、あたしはルーシィです!マーリンさん、よろしくお願いします!」
「ンフフ。多分アタシの方が年上だけど、敬語とか要らないよ。同じギルドの仲間だしね」
「え、じゃ、じゃあ…マーリン?」
「そうそ、その調子。気軽にね、と言ってもアタシあんまりギルドにいないからね」

 ぐび、と仕事終わりの一杯!と言いたげにワインを煽ったマーリンに、向かってくる火だるま。


「久しぶりだな!!おかえり!!ってことで早速!勝負しろーーー!!!!」

 相変わらず騒がしい、フェアリーテイルの中でも軍を抜いて問題児のナツだ。


「ああ、ただいま。ナツ、」
「ちょ、ちょっとナツ!?」

 勢い良くやって来るナツに対してゆったりと立ち上がるマーリンに、慌てた声を出すルーシィ。
 勢いで、もしかしてこれあたしも当たる!?!?と両腕で顔を覆ったところで、辺りが静かになったことで恐る恐る顔を出す。

 それになんだか、ちょっと冷えるような。



「全く。賑やかな奴だねぇ、お前は」



 ルーシィが目を開けてみれば、そこにはナツの首より下の体を凍らせ、そして身動きの取れなくなったナツの頭をぽんぽんと撫でるマーリンの姿が。

「ウガッ!またやられたっ!!」
「まだまだだねぇ。…ン?照れてんのかい?可愛いねぇ」
「う、うるせぇっ!!子供扱いすんなっ!!」
「アタシから見たらまだまだ子供だよ」

 いつもの調子でじゃれあいをしだしたナツとマーリンに、ポカンとしてしまうルーシィ。

「え、ええー?」
「ふふ、びっくりするわよね。マーリン程にもなると氷魔法でもナツの炎を凍らせちゃえるのよ」
「み、ミラさん…びっくりです、ホントに!」
「マーリンはうちのS級魔道士だからね。強いのよ」
「S級…?」

 ギルドの仕組み。S級について説明するミラと、それを聞いて目を輝かせるルーシィ。そんな二人に対し、今もなお勝負しろ!と騒がしいナツと、相変わらずだなぁと笑いつつその相手をするマーリン。

 しかしあまりにも勝負勝負!としつこいので、面倒になったマーリンはナツの首を叩いて気絶させたと思えば魔力調整をしてナツの氷を溶かし、気絶したナツをしれっと放置してミラにワインのおかわりをしに戻った。


「よ!相変わらずだな、マーリン」

 カウンターでワインを飲むマーリンに声を掛けるのは、グレイ。

「お、グレイ。久しぶりだなぁ、それより服着な」
「うおっ!?…そ、それより、また特訓の相手を頼みたいんだが、今回はどのくらいギルドに居る?忙しいなら今度で構わないんだが」
「ん、ああ。そうだな、仕事の具合と…気分によるかな。アタシは自由に生きてるからなあ。まあとりあえず今日はもう動きたくないから、明日以降かな」
「ははっ!そうだな。それなら明日のマーリンに期待しとくよ」

 氷という同じ属性の魔法を使う者同士特に仲の良いグレイとマーリン。二人が久しぶりの会話に花を咲かせていると。ふと、フェアリーテイルギルドマスターであるマカロフが眠そうな顔をする。

「どうかしました?マスター」
「いや…ねむい…」

 とろーんと瞼が落ちて眠そうな顔をしたマカロフに、きょとんとした顔をするミラ。すると、

「奴じゃ」
「え?…あ」

 がくんとミラが眠りにつくと共に、ギルドの皆が眠りについた。
 そして、それと同時に現れた一つの人影。

「ミストガン」

 ミストガンはマスターの言葉にも返事無く、掲示板に貼ってあった紙を選ぶ。



 その際、一人の女がその後ろから声を掛けた。

「久しいね、ミストガン。元気にしているか?」

 そんな女の言葉にちらりと視線を向けたミストガンは、女の名を呼ぶ。

「……マーリンか。まあ、相変わらずだな」
「そうか。なら良かったよ」

 皆が眠りの魔法で眠る中、何故マーリンは起きているのか。それは彼女が元々魔力耐性が強く、S級になるまでの実力を持つ魔道士であるからだ。
 ミストガンの眠り魔法は強力だが、耐えられる者は耐えられる。例を上げるとしたらマスターマカロフや、ニ階にいるラクサスなど。

「今回の依頼は、長引きそうかい?」
「……いや、そこまでは」
「ああ、魔物退治か。楽勝、か。……暇だから付いてっていいかい?報酬は二割か三割でいいから」

 『暇だから』とか『面白そうだから』などと言って、ちょこちょこ誰かの依頼に同行したがるマーリン。それを分かっているミストガンは、特に止める訳も無ければ困ることも無いため別に構わないな、と考え了承することにした。

 ……これが、ミストガン的には『マーリンだから』というのもあるのだが、ここでは敢えて言葉にしないでおこう。

「……構わない。……俺は『俺のすべきこと』をするが」
「それでいいさ。ふふ。アタシ、ミストガンのこと結構気に入ってるからね。たまぁに一緒に遊びたくなるんだよ」

 ンフフ、と楽しげに目尻を釣り上げたマーリンに、ミストガンは相変わらずだと呆れたような声色を出す。

「フン、物好きだな」
「今更かい?……さて、そんな訳で一緒に行ってくるよ。良いかい?マスター」
「ああ、わかった」

 そうして、ミストガンはマスターであるマカロフの元へ依頼書を提示する。しれっと隣に並ぶマーリンも共に行くという意味を込めて。

「……行ってくる」
「しばらくミストガンと遊んでくるから、よろしく頼むね」
「相変わらず仲良しじゃのお。ふむ、気をつけていって来い」

 言外に『ナツとかグレイとかうるさくなると思うけどヨロシク!』と意味を込めて、ミストガンと共にマカロフに背を向けるマーリン。


「これっ!ミストガン!眠りの魔法を解かんか!!」
「ああ。そろそろ解けるかい?早く出ようか」
「……伍、四、参、」
「じゃあ、しばらく行って来るよ。マスター」

 そうしてマーリンは、身一つで行くつもりな為身軽な身なりでマスターに手を振る。

 
「弐、壱…」


 カウントダウンが終わるタイミングで、二人はギルドから姿を消した。


 そして、二人の姿が消えると同時。ミストガンによる催眠の魔法が切れ、ギルドの皆の目が覚めた。
 途端、騒ぎ出すナツ。

「ウガーッ!!マーリンのヤツ、久々にギルドに帰ってきたと思ったら!!今度はミストガンと仕事に行きやがった!!俺との勝負を忘れてんじゃねぇーー!!」
「俺も、久しぶりに特訓に付き合ってもらおうと思ったんだが…」

 俺と勝負しろー!!と騒ぐナツと、マーリンと同じ氷の魔法を使う為に特に仲良しなグレイはたまに彼女に魔法の特訓を付けてもらっていたので、それをしそびれたと拗ねる様子を見せる。
 そんな様子を見ながら、ミラはニコニコと笑う。

「マーリンったら、相変わらずモテモテねぇ」
「えっと、マーリンと……ミスト、ガン?さんって?結局?」

 ルーシィからの質問に、ミラは二人の説明をするのであった。



 □ □ □



 そうして、ミストガンとマーリンの居なくなったギルドからはワイワイガヤガヤと賑やかな声がする。

「さて、行くかい?」
「…ああ。今回もしばらく付いてくる気か?」
「ン?ああ、ギルドの中もいいが、たまにはお前とも遊んでおかないとな。……しばらくくっついてくつもりだよ」
「はぁ、……好きにしてくれ」

 そうしてフェアリーテイル最強候補の名を持つ二人は、片や楽しげに。片や呆れがちに、マグノリアの街を去って行った。

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