宿るは愛しき宝物

 天狼島へ向かった彼らが姿を消し、数カ月。
 捜索を続けるものの姿は一向に見つからず、なんなら島自体の欠片でさえ見つからず。次第に希望を見失った彼らは言う。かつてのメンバーたちは亡くなったのだ、と。

 誰よりも、何よりも。信じていなければならないはずのギルドの皆が落ち込んで、そう言い始めたのが信じられなかった。どうして信じてあげないの、って。
 私達が一番信じ て待ってあげないといけない!って、叫んだ。
 でも、きっとそう世の中は単純ではない。純粋無垢に彼らを信じるだけでは生きてはいけない。

 そう実感する、前を向かなきゃ行けない状況になってしまった。
 彼らを失った悲しみで精神面が酷く落ち込み、その せいで食事もまともに喉を通ら無くて。ひたすら、彼らを待って。待って、待って。 それでも帰ってこなくて絶望していた頃。
 しばらくして、何かとにおいに敏感になり吐き気が襲うようになった。食事をしていない為ににおいが鼻につき、吐き気が止まらないのだろうと思っていた。

 しかし。最終的には吐き気と空腹からなる目眩という不調のせいで部屋で倒れていた私を見つけたビスカに、ポーリュシカさんの元に運ばれてしまった。

 結果、最近の不調は悪阻のいだと言われた。

 その時、言われてすぐは実感もないし、困惑すらしなかった。でも、一度気絶するように寝たからか。点滴で栄養が少し入ったからか。
 ポーリュシカさんの手配で街の病院に入院すること になり、着替えなどの荷物をまとめるためのビスカと共に自分の家に戻って。戻って、しまったら。
 だめたった。

 グレイと過ごした色の残る、家が。
 いつもいってきますと言い合ってお互いの無事を祈って、ただいまと言ったらおかえりと返ってきて触れるだけのキスをした玄関が。
 あまり料理をしないグレイと、ああでもないこうでもないと話しながら並んで、料理をして。まるで新婚さんみたいだと笑えば、いつかな、なんて言われてひどく浮かれたキッチンが。
 二人して溶け合うように愛し合って、それから惰眠を貪った寝室が。肩を並べてソファに座って、ニュースやバラエティ等...テレビを見ながら他愛のない会話をしたリビングが。
 いろんなことが脳裏に過ぎって崩れ落ちてしまった。

 いつまでも待ってあげたい。
 早くおかえりって言いたい。
 でも、でも。グレイ。……私。

 貴方を想いすぎて、苦しいよ。

 早く、大丈夫か?っていつもみたいに抱き締めてよ。

「グレイ、グレイっ、ああ、...っああ!」
「ヘル、大丈夫よ、私がいるわ。泣いていい、 泣いていいんだよ!我慢しなくていい!不安なのは、皆 一緒なのよ!!」
「び、すか、...っビスカ!グレイが、皆がっ...!かえって、こないの...!!」
「っ、」

 強く、強く。寂しさを誤魔化すように抱き締められたぬくもりの強さに、縋って。私は。

「あ、ぁ、...っひ、うぁぁあ!!」

 グレイ達が居なくなってから初めて、声を上ゲて泣いた。



 ◇ ◇ ◇



 散々泣いて、少しだけクリアになった思考で。寂しさに潰されそうになりながら、それでも私は立ち上が らなければならない。だって。

「ねぇ、ビスカ。私ね、きっと大変な道だとしても。この子を産むよ。だって、この子は唯一無二グレイとの宝物だから。私が守ってあげなきゃいけないの」
「でもアンタは独りじゃない、独りじゃないよ。だから、私らを頼ってちょうだいね」
「うん、うん。...ありがとう、ビスカ」
「さて、そうと決まれば早いとこ支度して入院しちまおう。栄養失調が酷いんでしょう?座ってるのもつら そうだわ」
「あはは、そうなんだよね。結構しんどくはある。......でも、 そっか。私、お母さん≠ノなるのか。.....じゃあ、ちゃんと食べて、この子に栄養をあげないといけないね」
「そうだね。きっと、なんとかなるわよ。」
「うん、ありがとう。ビスカ」


 まだこの世に存在し始めたばかりの小さな命。
 貴方の残してくれた唯一無二、愛しい宝物。

 私は、ちゃんと育ててみせる。いつか、貴方とまた会えるその日まで。頑張ってみせるよ。

 だからね。グレイ。 再び会えたその時は、「言いたいこと」の続きを教えて。そして、めいっぱい抱き締めて。
 私の答えはもうずっと決まっているから。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -