「やっと逢えたね」

最初に出てきた言葉がそれだった。君は不思議そうな顔をして僕を見た。

「君には前に会っているだろう?」
そうだよ、会っている。けれど、そうじゃないんだ。

耳を澄ませないと聴こえない音楽と共に漂う珈琲の匂い。苦そうな匂いから一転甘い匂いもあとから追いかけてくる。小さな喫茶店には、僕と君とマスターだけ。ここはちょっとした隠れた名店で、初めて来る人にとっては見つけるには少し難しい。
お昼を過ぎておやつ時、今日は雨だったからか他のお客さんはいなかった。ぱっと明るい訳では無い優しいオレンジの蛍光灯は僕と君の顔を照らしている。

この喫茶店のレトロな色にアフロディは溶け込んでいる。
僕はどうだろうか。ブラックが飲めない僕は君と同じようになれているだろうか。

「僕のこと、見てくれてた?」
「そりゃあ、アジア予選決勝の相手で吹雪くんはマークしなければならない敵で……」
「ふふっ、そうだよね」
吹雪が笑うと、アフロディはなにかおかしいかな?と不思議そうだった。すると、マスターが「ブラックとウインナー珈琲です」と2人の前に注文したものが置かれた。

「僕、どうだった?」
「……敵ながら感心するほど手強かった。サンダービーストだっけ、新必殺技も驚いたよ。怪我させてしまうほどに目障りだった」
「そこまでいうかなー、ふふっ」
「吹雪くん、君は敵である僕に褒めてもらいたかったのかな」
照美がカチッと音を鳴らして珈琲カップを持ち上げた。吹雪はウインナーの部分を少し溶けるまでスプーンをゆっくり回している。

「そんなわけじゃないよ、ごめんね突然呼び出して。……呼び出した理由はこうしてちゃんと出逢いたかったなと」
「ちゃんと?」
「君とは僕が不安定な時期に会ってそのまま別れてしまっただろう?だからゆっくりと話してみたかったんだ。ちょうど足を怪我して練習もあまり出来ないし」
ちらりとアフロディをみると、眉が少し下がる。当たり前だが、怪我してしまう自分も悪いと思っている。
けれど、今日は少しその罪悪感を盾にワガママ言わせてね。

「だからね、今日は君とゆっくり話をしたくってね。どうして世宇子中の君が韓国代表になったのかとか、強さの秘密とか……あとアフロディくん自身のこととか」
「…………」
アフロディは黙ったまま珈琲を口に運んだ。
やっぱり迷惑だったかなと吹雪がようやくウインナー珈琲を一口飲むと、甘さと苦さが絶妙でビックリした。
「フフッ、吹雪くんは分かりやすいな。美味しいでしょここの珈琲」
「う、うん!!これブラックではなくてもすごく美味しい!こんなお店よく知っていたね、アフロディくん!」
満面の笑顔を浮かべて吹雪が答えると、アフロディも笑みがこぼれた。

「じゃあ、今日はここでゆっくりと話そうか、サッカーのことや僕のこと……そして可愛い君のこともね」
ドキッとして、手元に持っていたカップが揺れた。


雨が晴れて、夕日が中身の無くなった珈琲カップを照らすまでのあっという間の時間が、この胸の高まりをさらに強くなっていく。


「じゃあ僕もそれまで待つとしようか」






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君と僕の
照吹





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