水の泡になって死んでいった人魚姫は果たして幸せだったろうか。あたしは幸せだったと思う。こんなに酷く好きな人を諦めなければならないなら、あたしは海に落ちる。
誰もいない砂浜で月光にさられながら海をただ見つめて、そんなことを考えていた。
好きな人が出来たという事実は簡単に受け入れられない。
どうして、あたしこんなに幸せで一緒に笑っていたじゃない。
「ひどいよ…こんなの!」
気付いてなかったといったら嘘になる。偶然見つけて抱き締めたあの時微かに鼻をかすったバラの香り。
無視して気付かないふりして、今まで以上に彼のために尽くした。
彼は困っていたが、あたしはそんなの知らない。捨てられたくなかった。好きだから。愛想を尽かすのをさらに早めた要因だというのに。
「今日は海は慰めてくれない」
何かあったらこの浜辺へ来ていた。解決はしないが、心は安らいだ。
広く包み込む地球最大の包容力を持つ。彼も負けず劣らず包容力あると思ったのに、あたしの思い込みかしら?
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