赤い林檎にみせられて【白雪パロ】4



今宵もまた半月の光に当てられて鏡は怪しげに影を映し出す。影は次第にはっきりしていき、赤い髪の毛が揺れた。暗闇から手が伸びて鏡に触れる。鏡に映る赤い髪と暗闇にいる二人の口が開いた。
「鏡よ鏡。この世で一番美しいのは誰だい?」
窓から風が入り込み、カーテンはシャアアアと動いて月明かりの範囲は伸び、暗闇にいたヒロトを照らした。鏡に映る影は口角を上げて静かに答えた。

「あなた様と言いたいところですが、残念ながらあなたが殺したと思っている姫…照美姫が一番美しい。3度も殺されそうになりながらも生き続けて、そのことでより小人たちとの絆を深め、彼女の魅力がより引き立てて以前より輝いておられる。」


ヒロトは鏡に触れている手を強く握りしめた。姫がまだ生きている…胸のざわつきが収まらない。ダメだ、姫だけは許さない…許さない…この手を汚しても!

「あなたはそうして自己満足したい」

鏡は先程と表情を変えていない。鏡と言っているが、鏡の機能はほとんど意味をなしていない。もう一人の自分が中にいる、真実の自分が本物の自分の問いに答えを示す。魔法は解けることなく、真実を閉じ込め私の道具としてここにいる。そんな道具は醜いものである。

「何が言いたい…」

「どう足掻いたってあの子は戻ってこない。失われたものは掴むことはできない。最初からそうであったように。けれども胸の中に疼く痛みは治まらず、美しいと誰もが羨ましがられる照美姫を殺したいという欲求に飲み込まれる。ああ哀れな、哀れな…」

ドンッ!!と鏡を叩いた。ヒロトの髪は逆立っている。真実の自分を睨みつけた。

「それ以上言うな。分かっているのだ。こんなことをしても意味がないことなど。美しいと皆から賞賛を浴びせられる姫が憎い。ただそれだけなんだ。傲慢だと周りに言われてもかまわない。」

「やはりその力に頼るのだね。グラン」
真実の自分はゆっくりと目を開けていく。彼の瞳は見るものを吸い込むような怖いくらいに綺麗だ。
グランという名は魔女になった時に与えられた証。人間の奥底に眠る力を最大限に放出させ、何があろうとも目的を必ず成功させる。グランの胸に打ちつけられた紫色の宝石が魔力の源となる。右手を巧みに動かし丸い球体を作り出した。青白く光る球体に息を吹きかけると、瞬く間に紅色に染めあがる。グランは両手でそっと持つと滑るような艶やかな林檎へと変容した。

「私のように綺麗だろ?」
グランは薄気味悪く微笑んだ。
「はい、あなた様のようにお美しい。そして中身も…」
鏡はにっこりと無邪気に笑った。
グランはフッと小さく息を吐き、鏡のカーテンを閉めた。

「もう時間がないんだ」
















小鳥は照美の歌声に合わせて合いの手をつける。澄んだ空気に暖かな日差しに照らされて照美の髪はキラキラと反射した。部屋の中で優雅に紅茶を飲みながら窓の外を眺めた。

「気持ちの良い朝だ」

小鳥は歌が終わると日差しに向かって飛んでいった。
ここでの暮らしは今までにない常に新鮮さと明るさで溢れている。自分が腹の底から笑えるなんて全く知らなかった。短くなった後ろ髪を触った。女の子にとって髪は命と言うが今の私には関係ない。代償は軽いものだと鼻で笑った。
頭をコツンとカップで叩かれた。振り返ると晴矢が眉間にしわを寄せて照美の隣に座った。カップを机に置きムスッと顔したまま口を開いた。

「―――何もしないなら留守番くらいしっかりできろよ姫さん」

晴矢はごくりと喉を鳴らした。紅茶が飲めない晴矢はホットミルクだ。隣から流れる牛乳の甘ったるい匂いが照美の鼻をくすぐった。甘い匂いと晴矢はあまり似合わないなと晴矢をじっと見た。

「またそんな風に言って…晴矢も素直じゃないんだから。晴矢は照美姫のことを心配しているんだよ。このところ、帰ってくると照美姫が倒れていることが多くて怖い。この間だって、チャンスウが毒の櫛を早く抜かなければ死んでしまうところだったろう。」

いつの間にかいた風介が晴矢の髪がぐしゃぐしゃとする。やめろと晴矢が手を伸ばすが風介はやめない。姫さまに暴言を働いた罰だよと風介が言うと、晴矢がついにこらえきれず唸った。

「あ〜〜〜〜〜!もう!だから!大人しく留守番をしていてくれよ!お前の笑顔が帰ったら見れないなんて嫌なんだ!」
照美をジッと睨んでミルクを一気に飲み干しコップをダンッと置いた。照美はびっくりして口を開けたが、ゆっくりと顔がほころんでいく。自分のために怒ってくれる人が今までいただろうか。幼いころにさんざん怒られたが、背後にはお国のためまたは高給料というものが透けて見えた。私のためじゃない、私欲のためにさんざん罵声を浴びせていらだちを抑える。

ここに来てよかった。

照美は晴矢の手を掴んで優しく撫でた。途端に晴矢の顔は木苺のように赤くなって固まっていく。

「なにす…!」
「晴矢ありがとう。そして風介も」

すんなりと口から出た言葉は自分とは思えないほど澄んだ音だと思った。

「洗濯も干し終わったところだし、そろそろ行きますよ」
チャンスウは朝の家事を終え、リュックにお弁当と仕事用具を詰め込んでいる。晴矢はその声で我にかえり、手を振りほどき立ち上がって自分のリュックを持った。
「すぐに照れるんだから」と笑っている風介も耳が赤い。晴矢より風介の方が照れ屋だと思うのだが…。その様子に照美はおかしくてにやけた。


玄関先で照美が「いってらっしゃい」とチャンスウに声をかけると
「いってきます。照美さんはくれぐれも家の中に誰も入れないでください。入れたら夕飯は抜きですからね!」
と照美の頭を撫でた。
ああああ!!!と大声をあげて騒ぎだした晴矢と風介を引き連れて、仕事場へと出かけて行った。
本当に面白い人たちだ。



うすうす気づいているんだと思う。ここを訪れる人はそうそういない。だがここ連日訪ねてくる。わざわざこんな奥地まできて私に会いに来るのは継母だ。いや、あれは継母だった魔女だ。だがそんなことは言えない。三人をこれ以上巻き込みたくない。どうすればいいのかと照美は考えているがなかなか良い策が生まれない。ここを出ていけばいいかもしれないが、すでに三人と接触していることをあちらは知っている。私がどこへ行ったかと拷問にあうことが想像つく。今日もまた本を読みながら頭の隅っこで考えていく。
ふと外を眺めると雨雲が迫ってきている。雨が降る前に洗濯物を取り込もうかと読みかけの本にしおりを挟み、照美が立ち上がるとトントンと扉をノックする音がした。

「きた………」

照美誘われるかのようにはゆっくりと扉を開いた。





…continue


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ヒロト書くのが楽しいですね
次の展開は人によっては受け入れがたいと思うので、飛ばしてもかまいません。


20120503





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