広告【奏純】




奏の人気が上がるたびに負けたくないと思っている。しかし同時に奏はすごいやつだから仕方ないと諦めたくもなっている。
「……大きな看板だなあ」
街中で見つけた大きな広告看板には眩しい笑顔でサイダーを持っている奏がいた。ファンらしき子が数人、一番良く見える場所から写真を何枚か撮っている。オレからしても目に留まるいい広告だ。奏の魅力がひしひしと伝わって昨日まで二人で夜を過ごしていたこともまるで夢のようだ。

奏と付き合ってからも会う頻度が増えたわけじゃない。お互いに忙しかったし同居しているわけでもないから一週間に一回会えればラッキー的なところだ。ただどうしてもそうなるとテレビ越しや広告越しに会うようなことの方が多い。オレも同じ立場なはずなのに、一般人が芸能人に恋している気持ちが分かってしまう。
パシャリとオレは遠くから広告看板を撮った。その写真をみてどうでもよい敗北感が襲い、ふと写真をコメントもなく奏へと送る。
きっとなにも伝わらない。オレが今どう思っているのかも。見てくれてありがとうと普通に感謝されるだけかもしれない。
ハハッと乾いた笑い声が出したら、すぐ返信が返ってきた。
『純哉くん今どこ?会える?』
一気に体温が上がった。熱くて汗が出そうだ。
純哉は返信を打った。
『○×ビルの屋上』
すると後ろからカンカンカンと大きな音が聞こえた。
「純哉くん!」
声のする方へ振り返れば髪が乱れまくって顔から汗を垂れ流している奏がいた。
「奏、なんで、お前……」
純哉が躊躇っていると奏は走ってそのまま抱き締めた。
「な、お前!ちょっと!外!」
バクバクとした音が身体中が駆け巡って、まずいと純哉は引き剥がそうとするが奏は強い力で抱き締めて離れなかった。
純哉は観念して手を下ろした。
「ーー純哉くん、あの広告の写真の笑顔の先って考えたことある?」
「笑顔の先?」
さっきまでオレが弱りきった顔をしていたのに、表情は見えないが声音だけたと奏の方が弱々しい声をしている。
「うん。オレは真っ先に純哉くんが見ていると思うと良い笑顔になるらしくて。勿論純哉くんの次にファンのみんなも思い浮かぶよ。なんかね、純哉くんがいてくれないとオレはああいう笑顔になれないのかもしれない。だからさ、」
奏はようやく腕を解いて、純哉を見た。
「次は一緒に仕事しようね!絶対その方がいい写真撮れるもん!オレも頑張るから……!!」
はにかんだその笑顔に純哉は分かったのだ。
コイツはずっとオレのことを意識して仕事をして、オレには及ばないと思っていることもある。そんで同時に負けたくないとも思っているのだ。
良い仕事をみると、オレだって同じように思ったのに仕方ないなんてちょっと感じたのが悔しい。
「ーーそうだな、奏」
純哉はそっと手を伸ばして奏の手を握ると、奏も嬉しそうに笑った。



20211225




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