冷たくないものだけど触れさせたくもない【蘭マサ】








「今日練習終わったあと、少しいいか?」
「え、まあ……いいですけど……」
部活が終わってから霧野センパイに声を掛けられた。なにかやらかしたから説教なのかと少し憂鬱になった。声をかけられたとき、かなり真剣な表情をしていたからだ。
思い当たる節はいくらでもある、だがしかし、練習後に呼び出してまで言いたいことだろうか。言いたいのなら声を掛けた時点でいうべきだろう。
入部して関わってから随分経っている。そんな遠慮する仲でもない。
練習後、片付けを終わらせていつも途中まで一緒に帰っている天馬たちに残らなきゃいけないことを話して先に帰らせた。ロッカールームにいくとセンパイがぽつんと一人残っていた。
「片付け終わったか?」
「ええ、まあ……あのオレになんか用ですか?」
「帰りが遅くなると大変だからとりあえず帰りながら話すよ」
センパイはみていたスマートフォンをパチンと閉じて立ち上がった。どうも怒っている様子はないから説教ではなさそうだ。オレは急いで帰る準備をした。
 
 
部活棟の鍵を返しにいって、「帰ろうか」と白い息を吐きながらセンパイは歩き始めた。オレはその後ろをついていく。すると校門を出てすぐにセンパイは立ち止まった。
「はあ……狩屋、後ろだと話ししにくいだろ。横に並んでくれないか?」
「ーーハァ分かりました」
オレが立ち止まったセンパイの横に並ぶと足を一歩前に踏み出した。家々の明かりと街灯と澄んだ冬の空気にはよく映える月が顔を上げた先に見えている。二人はその中を歩きながら、オレは我慢ならずにもう一度訊いた。
「ーーで、なんかあるんですか?オレに」
オレがいうとセンパイは横目でオレを見ることもなく月をみていた。
「あるよ、狩屋に出会ってオレは知らなかった自分がいたことに分かったりオレ自身が変われたこともある。だから会えてよかったなと」
足が立ち止まった。急に何言い出してるのか。狩屋がセンパイの顔を見ると、センパイは声掛けたときと同じ真剣な表情をしてる。そのままゆっくりと近付いて手を差し出した。
「狩屋、オレはお前が隣で一緒にディフェンダーとしてプレイ出来て良かった。今までちゃんと伝えてなかったけれど、今年もそろそろ終わるし明日のクリスマス会の後は練習休みになるから会えないだろ。だからちゃんと言っておこうと……」
「いや、ま、待ってくださ……」
オレは一歩後ずさりすると、センパイはまた一歩近付いた。
手を取れと手を動かしている。オレは、その手を取れるだろうか。取ったら何かが伝わるのだろうか。手を前に伸ばせずに口元を隠してしまう。言ってしまいたくなる何か。その何かをセンパイはきっと気付いていない。
ーーーーオレがセンパイに何を感じて想っているか。

「狩屋、寒いだろ」
センパイはオレに近付いて、オレの手を取った。
その手は温かくて、振りほどくことは出来なかった。





20211223




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