隣にいて【蘭拓】





会いたいなとぽつりと転がる気持ちを無視して、やるべきことをしなくてはとピアノに向かう。
年末年始の親族の集まりでピアノを毎年弾いていた。一年の成果をお披露目するかのような場で、失敗は許されなかった。
サッカーのせいでピアノが疎かになったと言われたくない。サッカーもピアノも好きだが、どちらかのせいでどちらかを悪く言われるのは気に入らなかった。
学校がもうすぐ冬休みに入る。冬休みに入ったらそういった家の為のやるべきことに向き合う日々となる。きっと多忙で休みなんてあっという間だろう。
「……霧野に会いたいな」
つい口から漏れた独り言にあっとなっていると、ガタンと音がした。神童が音がする方へ目を向けると、驚いた顔をした霧野がいた。
「……悪い、部屋の扉をノックしようとしたんだが、ピアノの練習していたからそっと来たんだ。疲れが溜まってないかと心配で少しだけ顔見に行こうかなと……」
きっと今の独り言が聞こえたのだろう、霧野は顔を真っ赤にしている。
「すまん。確かに疲れていたのかもしれない」
神童は座っているピアノのイスから少しズレて座り直してトントンと空いたスペースを軽く叩いた。
「霧野、ここに座ってくれないか」
「ーー分かった」
霧野は神童の言うとおりに、空いたスペースに座った。身体が触れ合わないと二人じゃ座れないそのピアノのイスに少しばかり感謝をして、神童は霧野の肩にもたれかかった。
「……神童?」
「少しだけ、このままでいさせて」
霧野が息を吸って吐く身体の動きや心音が伝わってきてすごく落ち着く。ああ、今、隣にいてくれる。それだけですごく満たされる。
すると、霧野が神童の頭をゆっくりと撫でた。
「神童はいつも頑張りすぎるからな、オレがこうやって来ないと息抜きしないだろ」
声の振動と共に流れてくる優しい気持ちに神童は口元が緩んだ。
「ああ、そうだな……ありがとう霧野」



20211215




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