一瞬の溺れ【レンアサ】VG




去年のことを覚えていないものだと思っていた。
「去年、電話より会った方がいいと言ったのは僕ですよ?」
「そ、それはそうなんですけど……!でも本当に会ってくださるなんて思ってなくてですね……」
日付が変わる1時間前に急にレンから電話がかかってきて、『今から僕に会いたいか』と言ってきたのだ。私は何も考えずにただその言葉が嬉しくて会いたいですと即答すると電話が切れてしまった。
なにかの遊びかなと思っていた30分後、外から声がすると思ったらレン様が私の家の前にいたのだった。
私が慌てて温かいものをと、大きめのコートとホッカイロを持って外に出てレンに事情をきくと会いたいと言われたからとのことだった。
「ーーなんで私に会ってくださったのですか?」
そうきくとレンは首を傾げて怪訝な顔をした。
「だって、アーちゃんは僕の誕生日を一番に祝うのが何より嬉しいんでしょ?で、僕はふとアーちゃんに今会いたいなーと思ったから。だから来たのに……」
レンはみるみるうちに機嫌が悪くなっていくのが分かってアサカは慌てた。
何の話かと思えば、去年私が自分の誕生日の時に《レン様の誕生日になる3分前を私にほしい》と言って本当に叶えてくれた話だ。レン様の中での一番になりたくて出た欲のかたまりだ。
思い返すだけでも恥ずかしくなってくるが、今は不貞腐れた顔をしているレンをどうにかするのが先だ。
「ご、ごめんなさい!……私もレン様に会えてお話できてすごく幸せです!!もう夢のようで、というか私がレン様の元へ行けばよかったですね!すみません!」
アサカが頭を下げると、顔を上げなさいとレンはため息をこぼしながら言った。
「はい……」
「アサカ、僕が会いたいから会いに来たのです。僕だって、自分の誕生日よりも僕の誕生日を何より楽しみに気合い入れているアサカに一番に祝ってほしい。そんな気持ちは駄目ですか?」
ストンと胸に雨粒が落ちるような音が聞こえた。それはどんどん大きくなって胸を打つ。
駄目なんかじゃない、駄目なんかじゃ……。
それでもどうしても、本当に?と疑うのは許してほしい。
なんて返せばいいか分からないまま、嬉しさと戸惑いといったりきたりして瞳からは涙が一粒落ちた。
「ーー日付そろそろ変わったんじゃないですか」
「…………」
レンは別にアサカの涙を拭うことはしない。けれど手を引いてくれる。そしてそっと胸に引き寄せてくれる。それで十分だし最高に幸せなんだ。
今はただ、目の前の幸せに溺れよう。
 
「レン様、お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、アーちゃん」
レンが無邪気な子どものように笑うとアサカも一緒に微笑んだ。


20211212





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