食べ方【ひいあい】



そろそろコートを出してこなきゃいけなくなった冬の始まり、藍良は一彩と一緒にとあるカフェで食事をしていた時のことだ。
「……そういえばヒロくん食べ方本当に上手くなったね」
ナイフとフォークを使い分けて綺麗にパンケーキを切り分けているところをみてふと思った。
最初に出会った頃は一体今までどこで過ごしてきたのか分からないくらい、おれの当たり前だったことを知らず、先輩たちや多くの人のおかげで一彩は学んですぐ取得してきた。一彩は覚えるのが得意なのかこの半年以上一緒に過ごしてきて、最初の頃が嘘みたいなくらい成長している。
「藍良や先輩たちが僕に教えてくれたおかげだよ。まだまだ知らないことがあるから何かあったらすぐに教えてほしいよ」
そういって切り分けたパンケーキを一口頬張った。
「そりゃもちろん教えるけど……」
けど、教えることがなくなったらそれはそれで寂しい気がする。勉強は全く一彩には勝てないし、歌やダンスも一彩より上手いと胸を張れない。アイドルのことなら自信はあるけれど、それはオタクだからであって一彩にはあってもなくてもいい知識ばかりだろう。
おれから得るものがなくなったら他の人に教わるのだろうか。おれの元から離れていってしまうのではないか。
「……ヒロくん」
「なんだい、藍良」
下を向いて藍良は自分の手をギュッと握りしめた。
「教えることがなくなってもおれの前からいなくならないでね」
一彩は首を傾げてから言う。
「いなくならないよ?だって藍良は大切な友で仲間だから」
「そ、そうだよねえ……ごめん変なこと言って」
へらっと笑って藍良は自分のパンケーキを切り分けて口に運んだ。そのケーキはかなり甘いはずなのに全然味がしなかった。


20211211




prev next








×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -