大事な背中【基緑】






※付き合ってない





カラスやスズメの鳴いている声を聞きながら、玄関でトントンとスニーカーをしっかり奥まで履く。寒さがすぐそこまできているから、今週から中には1枚Tシャツを着た。玄関の扉を開けようとすると、後ろから声がした。
「あれ、緑川も朝練?」
「ーーまあね!緑川も……ってことはヒロトも?」
「うん、今週からやろうかなって。寒くなってきたから目も覚めちゃったし」
靴箱から自分のスニーカーを出してヒロトも先程の緑川と同じようにトントンとつま先を床に叩いて履いた。思い返せば元々その癖はヒロトからうつされたのだったかも。
ヒロトも一緒にか、緑川は玄関の扉を開けた。

タッタッタッと緑川もヒロトも無言で走っている。最初は横に並んでいたがチラチラとヒロトがこちらを見ていることがわかった。緑川がそれに気付いてヒロトをみると慌てて視線をそらす。
緑川には一緒に走る時点で分かっていた。ヒロトの方が足が早いのだ。部活のランニングの際は、ヒロトがいつも前にいる。それぞれのペースで走れば良いのだから当たり前だ。しかし、今は別に自主練であってオレ以外に走る人はいない。
だから、ヒロトはオレと走ろうとする。一緒に走って楽しもうとするのだ。
「…………ヒロト先に行ってくれない?」
「え、あ、うん……」
そう緑川がいうとヒロトは戸惑いながらも理由は聞かずに少しスピードを上げてオレの前へと出た。
緑川はそのままスピードを変えずに走ってその背中をみていく。
オレなんかに合わせないでほしい。オレはヒロトに並びたいから、オレよりすごいヒロトに並びたくてこうして朝から走っているのに。
曲がり角を曲がって、川が見える。前を行くヒロトは河川敷へといって、キラキラと反射する川を横目に気持ちの良い朝日が背中に当たって汗がじわりとかいた。
「気持ちがいいね、ヒロト」
緑川がいうと、ヒロトは嬉しそうにああと答えた。
「そうだね、緑川が一緒で良かったよ」
前を行くヒロトの表情は見えない。オレの表情だってヒロトには見えない。
けれど、目の前に見えるヒロトの背中は早く来てと言っているみたいだった。


20211128





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