忘れ物は1つだけ置いていく【創作BL】








「忘れ物がないようにしろよ」
昨日電話で言われたことが頭の中でグルグルと渦を巻いている。鍵を使ってアパートの部屋へと入ると、まだここに自分の居場所があるような気がした。
出ていったときと何も変わってない家具や台所の洗ってない食器、テーブルのそばに落ちているビールの空き缶を僕は拾ってゴミ袋に入れた。
3ヶ月経ってゴミ屋敷にならなかったことは僕がここに1ヶ月暮らしたおかげなのかもしれない。そう思うと少し口元がニヤけた。
彼は善意で僕を助けた。前の彼氏に捨てられて貯めていたお金ももっていかれて、路上でのろのろとこの世を恨んでいたら彼は僕に手を差し伸べた。
いくつか話しているうちに同郷なことが分かって話が弾んだ。彼はその時酒を飲んでいたから酔っていた勢いで僕を引っ張った。
「行くところないならしばらくうちにくれば?」
悪いと思いながらもその時既に僕は彼に惹かれていた。だが彼には恋人がいることを後に知ることになった。酔っていたのは、その恋人とうまくいっていなかったからだった。あの時、あのまま僕も勢いのまま襲っても良かった。そうすればこんな引きずることもなかっただろうし、彼も大した傷にならずにすんだ。
僕はただの居候で彼の身の回りのことをなんでもした。その一環で、彼の恋人のことを調べ上げてこの人は彼の恋人にふさわしくないと感じた。だから、別れさせることにしたのだ。
彼は優しいから僕を最初は疑っていなかった。そんなことをする奴じゃないと出会って少ししか経っていない僕に対してはっきりと断言する。彼の恋人は僕がいうような《他に気になる人がいたり》、《ただの金蔓だと思ってる》なんて事実はない。ただ、長い付き合いなのに同棲もしてくないし結婚も考えていないことに少し不貞腐れていただけだ。
そんなところに僕が現れた。僕は彼の恋人が出来なかった一緒に住むことが出来ている。嫉妬したり疑うのは当たり前だった。
彼の恋人が僕らの部屋に来る日に、僕は彼に睡眠薬を飲ませた。
彼の恋人が部屋の扉を開けた瞬間に、僕は彼の上に乗って眠っている彼の唇に触れた。
その人が何を言おうと僕は彼の唇から離れずに見せつけた。何かを叫んで泣きながら何処かへといったのだ。

その後は……全て普通にバレてしまった。僕がそういうことをしたり、そういう気持ちで彼を見ていて、私利私欲のために別れさせようとしたことも。
彼は拳を上げたが僕を殴ることはしなかった。
「出てってくれ、もうお前の顔がみたくない」
僕は泣いた。けれど、彼はその涙を拭うこともせず僕はその部屋を出ていった。
 

「まあ仕方ないよね」
僕は台所を片付けたあと、部屋にあったちょっとした自分の私物を捨てていった。律儀に残しておくこともしなくていいのに、ああ愛おしい。
もう彼は僕のことを見ないだろう、見ても無視をするだろう。
ゴミ袋を持って、僕は鍵を部屋のテーブルに置いた。
「幸せになるといいよね」
この部屋に暮らしていた頃にはなかった写真立てをちらりとみて僕は部屋を出た。
 
晴れた空がひどく眩しい。どんなに明るい日差しも今はしんどいし疑ってしまう。
僕はまた愛を求めて夜までどこかで寝ていようかなと歩き出したのだった。



20211120




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