触れてほしいから、けど【いつ純】





※付き合ってない。
お題「君だけが癒せる傷」




 
 
触ってもらえると嬉しくてそれだけで良かったのにもっと欲しいと思うのはわがままだろうか。
「あ、いつき、今から現場?」
次の撮影現場に向かおうとするとばったりと純哉に出会った。次の現場はディアドリでの撮影だがその前の仕事の関係で別々で現地で集合になっていた。
「はい!一緒にいきませんか?」
いつきがいうと、純哉はああと頷いて隣を歩き始めた。現場までは電車で行くので、最寄り駅まで二人は歩きながらさっきまでの仕事の話やマロンの話をした。こうして二人だけで話すのも嬉しいなと思っていると、ふとチラチラといつきの顔をみていることに気付いた。
「純哉くん?なにかオレの顔についてますか」
「ん、いや…………。あそこに見える広告のお前ってさ、めちゃくちゃ評価されてんだよな」
純哉が目を向けた先にはビルの上にある大きな広告看板だった。化粧品の広告で、いつきが頬へ指を当てながらこちらを誘うような写真に《あなたに触れてほしいから、》とあおりが書かれている。
純哉は立ち止まっていつきの顔をじっと見た。じっと見られると照れくさくなってつい目を逸らしたくなるが、こうして自分を見てもらえることが貴重と思うと勿体ない。いつきも同じく純哉を見つめた。
「ーーーーなあ。いつきもオレと同じように……」
純哉は言いかけて言葉を飲み込んだ。何を言いたかったのだろうかと考えていると、また純哉は口を開いた。
「いつきはオレが触れて嬉しいか?」
「え、ま、まあ……。不思議と認められた感じがしますし傷に貼る絆創膏みたいに優しく守ってもらえる気持ちになります」
会う前に思っていたことがバレたかと思ってドキリとした。そのまま伝えるわけにはいかないから少し誤魔化しながら話した。嘘は言っていないはずだ。
純哉の口元が上がり、綺麗な歯が見えた。
「そっか、それはよかったよ」
そう言ってトンと背中をゆっくりと撫でた。むず痒くて、声が出そうになった。純哉はプハッと笑う。
「じゅ、純哉くん!からかわないでくださいよ!」
「ハハ、ゴメンゴメン」
嗤いつつも純哉は撫でた自分の手を反対の手で触る。それを見て、いつきはついその手を取った。
「……?いつきどうした?」
「ーーーーなんでもありません、さ、早く行きませんか?電車乗り遅れますし」
「あ、ああ」
すぐに手を離していつきは駅へと足を向けた。
耳は赤くなっていないだろうかと心配しつつも、自分の手に残った温かった純哉の手の感覚が消えてないでと願うのだった。






20211114




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