焼け野原に告ぐ【創作】






羨ましいが自分を覆ってしまうと、いつの間にか彼の嫌なところを探してしまう。大体ぐうたらで遅刻は多いし、忘れ物はするし、困るとすぐにこっちに頼ってくる。僕は僕でなんでこいつが?と毎回思いながらも彼の世話をする仕事を淡々とこなす。暗がりの中に聞こえてくる大きな歓声と拍手とお客が彼を呼ぶ声がする。初めは聞いていたら気が狂いそうだったので耳栓を持参していたっけ。
舞台裏に戻ってくると甘えた声で僕のところへと駆け寄ってくる。
「どうだった?兄さんみたいにうまくできたかな?」
可愛い顔して言うことが相手を的確に殺してくる。良い悪いはさておき、印象をしっかりと残せるのは彼だけだ。
「ーーーーうまくできていたと思いますよ」
僕は足の爪先にギュッと力を入れて、自分がその場から逃げないようにと踏み止まった。嫌なことはこの足元へと転がして今は照明に照らされてよく見えない人になれと心の中で唱えた。
「そっかーー。よかった、明日も頑張るね」
彼はそう言って、僕の真横を通っていく。息が詰まりそうで、彼が完全にその場から消してから大きく息を吸い込んでそのまましゃがんだ。
「あれ、大丈夫ですか?」
バイトのスタッフだろうか、若い女の子が僕へと駆け寄ってきた。最初の頃は気にかけていたスタッフたちも今じゃ裏事情を分かっているために何も声はかけなかったというのに。
僕は力を振り絞って立ち上がって精一杯大丈夫なフリをした。
「大丈夫だよ、ありがとうね」
僕がフラフラと歩き始めると、女の子はぽそりと呟いた。
「燃えつきた灰が風に飛ばされたみたいね、今の兄の方は」
それを聞いて一気に怒りが爆発しそうになって振り返ったが、誰もいない。振り返った先にあったのは舞台上の0番にだけスポットライトがついた景色だ。そこにはまだ先程までいた僕の弟の熱気があった。
「お前だろ、燃やしたのは」
ブツブツと言いながら僕は自分の担当する弟の楽屋へと歩き始めた。あの熱気がいつから憎くなったのだろうか。あの熱気が自分の熱気と異なるようになったのはいつだ。今自分の中にある嫉妬の炎は今もまだ燃え続けているのだろうか。
ーー兄さんと呼ぶ声がカチカチとライターの音のようになったのは。
「風になんか飛ばされてない。僕はまだ燃えている」




20211110




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