自分を選べる者【照吹】



※世界線混ざりと、後半同棲してる
お題「忘れないで、忘れられたくないんだ」




 
 
魔法使いのような真っ黒なマントに真っ黒なとんがり帽子、白い肌にはよく映える赤いリップが目につく金髪の方が僕達の家を訪れた。
 
「Trick or Treat!」
その人は一言呪文のように唱えると、弟はすぐに「とりーと!」と大きな声で目を輝かせて叫んだ。僕は返事に躊躇った。その人は弟に手にかけていた茶色のカゴからぐるぐる巻きのキャンディーを1つ渡した。弟はその場で大喜びしてはしゃいでいた。
「君はいいのかい?」
その人は僕に目を向けた。弟も同じように不思議そうに僕を見ている。
僕は望んでいいのだろうかと考えてしまった。甘いお菓子を望み、幸せな気分になっても。こんな遊んでいていいのだろうか。
「ーーーートリック……」
ボソリと呟いた返事に真っ先に反応したのは隣にいた弟だった。腕をグンッと引かれて弟をみると先程よりも大きく成長した姿だ。
「え、アニキそれって……この世界じゃ満足できないのか?」
まるで傷付けられたかのような顔をしてさらに腕を強く掴んできた。僕は痛くて、弟の胸をドンッと突き放した。僕はそのままふらついてしまい、魔法使いの人に支えられた。
弟はすごくすごくこちらを睨んでいた。
「正解だよ。ここはトリック…………ーー冗談の世界だ」
支えられたその人はパチンと指を鳴らすと一気に目の前は真っ暗になった。僕は暗闇が怖くてガタガタ震えていると、目の前に温もりが感じられた。誰かが僕を抱きしめている。
「君はいつか、この暗闇でも光を見つけることができる。だから甘い誘惑に惑わされて見失わないで、〇〇〇」
最後になんて言ったか、聞こえずに僕は目を開けた。
 
 
ーーーー全て夢だった。おぼろげになる夢の記憶は、現実の今の自分の状況と引き換えに消えていく。
「金髪のあの魔法使いだけは何故か見覚えがある気がする……」
引っ掛かるなと思いながらもこれからある日常のうちに忘れていった。

 
*** 

「Trick or Treat!」
彼は仮装もしていないのにそう言った。
「……トリック」
家に帰って早々言われてとりあえず答えると、はあとため息をした。
「君って毎年トリックって答えていない?お菓子好きじゃないの?」
彼は先が水色がかった長い金色の髪をなびかせた。
「そういうわけじゃない……ただアフロディくんに言われるとそう答えないといけない気がして」
僕もよく分からないが、トリートは選べないのだ。どうしてかそれは他の人の選択肢になってしまう気がする。
彼はふうんと僕の顔をまじまじと見て、そしてにっこりと笑った。
「まるで呪いみたいだね。フフッ早くそのいたずら解けるといいね」
彼は軽く僕の腕をとってキスをしたのだった。そうすると、フッと何かが消えていく感覚があった。
「……今、なにかした?」
僕がきく。
「うーん、おまじないかな。来年は選んでもらえるように」
キスしたところを彼は優しく撫でていた。

20211031




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