雨は明日晴れるか【蘭拓】



※付き合ってない。








屋根付きの部活棟があるから良かったものの、他の部活動だったらそうはいかなかっただろう。傘を差して帰る頃には校内や校庭以外で練習に励んでいた人たちはいなくなっている。サッカーの強豪校だけあって、優遇されているのは分かっているし周りも仕方ないといった感じだ。
秋の長雨はいつまで続くのだろう。
「霧野、待たせたな」
部活棟の鍵を返しに行っていた神童が戻ってきた。靴を履いて、オレから渡された傘を受け取った。
バサッと二人で開いてどんより薄暗い中を歩いていく。日が沈むのが早くって、校門付近の電灯がぼんやりと灯されている。
「今日、迎えの車はないのか?」
こういった雨の日は、頼まれなくても神童の家から車が迎えにきている。オレも何度も途中まで乗せてもらって帰っていた。濡れなくて済むし、神童とも話が出来て良かったのだが最近はあまり見かけなくなった。
「……やめてほしいといったんだ」
ピチャンと少しだけジャンプしてオレは目の前に急に現れた水たまりを避けていたら、神童の声が聞こえなかった。
「すまない。神童、もう一度言ってくれないか」
オレは立ち止まって振り返ると傘のせいで神童の表情が見えづらい。少し傘を上げてみると、神童の耳が赤かった。
「お前と帰る時間が好きだから。車の中だとあまり話せないし、だからその……迷惑だったか?」
耳が赤いのは少し肌寒いのかもしれない。オレは神童の傘に自分の傘をぶつけて少し持ち上げた。鼻も赤い気がするし、きっとそうだ。
「霧野?」
困ったような顔をされるとたまらなく手を繋いで走って好きだっていいたくなる。本当に困らせてしまうからそんなことをできないけれど。
けれども。
「ーーオレもだよ」
神童の隣に並んだ。濡らすわけにはいかないから手も繋げないし、お互い傘を持っているから相合い傘もしない。ただ神童の隣にいて話すことができる。
「オレも、神童とこうして帰るのが好きだよ。迷惑なわけないだろ」
オレが微笑むと安心したように神童は胸を撫で下ろした。
オレが歩き始めると、神童も歩き始めた。
 
こうやって、オレと帰るのが好きと思っているのは今だけな気がする。
雨が止んで晴れていったら神童はどこへでも飛んでいく、飛んでいってしまう。
そんな不安が雨のせいで濡れた肩の端のようにじっくりと染み込んでいく。
雨の日々はいつまで続くのだろうかと雨の音と神童の会話声に重ねって考えたのだった。





20211023





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