下手なさよなら 【奏純】



※付き合って数年後別れた純哉くん
お題【窓ガラスに移る君の顔が幸せそうで】



帰宅してテレビをつけると昔出ていたドラマの再放送が深夜に流れていた。奏が主人公でオレがその親友役のドラマだった。あの頃から付き合い出した関係は今ではもう様変わりしている。
別れてほしいといったのはこっちだったし、最後まで別れたくないと意地を張ったのはあっちだ。
 
『こんなに不安になるものなのかなあ、恋って』
学校の屋上で主人公と親友が話している。
今流れているのは、主人公が片想いをする女の子の話を親友に打ち明ける回だった。
そうだよと、オレが演じる親友は笑って背中を雑に叩いているが、本当は親友もその女の子が好きだったと主人公がいないところでこの後視聴者側には分かる。
この時の表情は役の表情というより自分の私情がのっかって、今から見るともう少し軽めにしても良かったと思う。

奏のことで頭がいっぱいだった。きっとこのドラマの後の方がもっとそうだった。それが数年続いて、仕事に影響出てると気付いた時には別れてと言ったのだ。
オレも不安だったのだ。ずっと。この恋が果たしていつまで続くのか、世間に知られたらオレたちを応援してくれたファンはどう思うのか?好きになってから考えてきたが、答えは見つからず目の前の欲に溺れる。
奏はいつも大丈夫だよと言ってくれた。それがずっと不安の一つだった。
大丈夫じゃない。何も。
恋が実ればそこでドラマのようにハッピーエンドかと思っていれば、その先にあるものはハッピーエンドだけではない。
知らないものが沢山待ち受けていて、不安をただ見て見ぬ振りをしていたら大きくなる。オレは不安が育ってもう手に負えなかった。

ーー最初の元の関係に戻れただけ本当に良かったと思う。

ふと、窓ガラスをみると自分の顔が映っていた。今日のロケバスの帰りにみた窓に写った奏の顔、すごく満たされた顔をしていたっけ。
自分も同じように笑えていただろうか。
あの頃の日々が自分の糧になっている。今でも好きな奏と仕事ができている。
「十分だよなあ、オレ」
写っている自分の顔は演じた親友の時より下手な笑顔をしていた。



20211009




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