祝う気持ちのケーキは/特別な意味を持って届くから【基緑/大人基緑】



※付き合ってない高3の基緑です。


おひさま園にきてからは沢山の人に『誕生日おめでとう』と言われた。月ごとにまとめて祝うため、誕生日当日にパーティーをすることもないがそれでも祝ってくれる人がいてくれるだけで有り難かった。
生きててよかった、ここにきてよかったと笑えるから。
けれど、隣に座ってオレと同じ月生まれの祝われてるヒロトは笑ってるようでどこか寂しげな顔をする。
ある年に誕生日会が終わった後、ヒロトに思い切ってきいてみた。
ヒロトは誕生日を祝われて嬉しくないのか、オレと同じような気持ちにならないのかと。
ヒロトは嬉しいよと答えたが、オレと同じ気持ちには見えなかった。オレがさらに突っ込んできこうとしているのが分かったのか、ヒロトは、だけどと言葉を続けた。
「だけど、オレが生まれた日は本当は分かってないんだ。オレがここに来た日がたまたま今月の16日だっただけ。だから今日祝われても来月祝われても同じく嬉しい。というかオレを必要としてくれるなら祝ってもらわなくても嬉しいんだ。それは緑川と同じで、生きててよかったと感じる瞬間かな」
ヒロトの出生がよく分かってないのは、瞳子姉さんからきいたことがある。だけどヒロト自身はそのことにこだわってない気がしていた。ただおひさま園、父さんについては大切に守りたいという気持ちは人一倍強い。父さんのためならなんでもしてしまいそうな危うさもある。
「誕生日を祝われるのは嬉しいことは事実だし気にしないでね」
ヒロトはオレにそう微笑んだ。


ーーーー今年も誕生日を祝う時期。昔と変わらずに誕生日近いからオレの誕生日と一緒に祝おうと誘った。オレは首を振った。
「今年はまとめてするなら16日に祝おう。オレはそっちの方がいい」
でも、とヒロトは食い下がったがオレは引かなかった。今年はバイトをしているのでヒロトに大きなケーキを買ってきて祝いたいからだ。
それで言うのだ。
《ヒロトが出ていってもここはオレが守っているから。それくらい出来るから》
父さんの会社を引き継ぎたいヒロトに留学の話が来ていることを高校の先生からきいた。だがヒロトはおひさま園があるからと渋っているそうだ。
絶対今後のために留学はした方がいいだろう。ヒロトが吉良財閥を背負いたいなら尚更だ。ならオレはどうすればいい。
《ヒロトなら大丈夫だよ、オレも大丈夫。オレだって努力して叶えたい夢があるから》
自分の胸に秘めた想いを伝えられるように同じように努力する。いつまでも心配される、なんて格好悪いことしてられない。
 
16日当日、大きなケーキをヒロトに買っていこうとした。しかし、バイトが終わるのが遅くなってしまい、ケーキ屋はその間に店が閉まって買えたのはスーパーで売っていた2個入りのケーキだけだ。
こんなことになるなら予約しておけばよかった。
仕方ないと思いつつも重い足取りのまま、約束の公園に向かった。
星空が綺麗な下、ヒロトはベンチに座って本を読んでいた。
「ヒロト、遅れてごめん」
オレが声をかけると、ヒロトは首を振った。
「ううん、いいよ。それでここで祝うの?」
「…………あのね、ヒロト。オレさ、」
今まで考えたことを言おうとして、手元のビニール袋に入ったケーキに目がいった。これでヒロトは安心するだろうか?留学を決めてくれるだろうか?
そう考えたら言葉が続かない。
「ーー緑川。オレ、来年留学するから」
「えっ……」
顔を上げると、ヒロトはなんでも分かってるかのような顔をしている。
「そう先生に説得するよう頼まれたんだろ。そんで、バイトの量増やしてオレが留学してもおひさま園は支えられるからと」
「ーーーーッ」
ああ全部お見通しだ。ヒロトはいつだってそうだ。オレが頑張ってもヒロトと同じ目線には立てない。
「だけど、オレが留学を渋った理由はそれだけじゃないんだ」
「それってなーーーー」
なんなのと言う前に口を塞がれた。いきなりの事で訳が分からず、唇が離れたあとに自分の唇へとゆっくりと手を伸ばして触って一気に顔が真っ赤になった。
「お前がここにいるから、ここにいたい。側にいたかった。だけど、それじゃあずっとお前の側にいられないし、緑川もオレが留学してほしいと思ってるのだろう?なら、これでオレは行くよ。きっとこの想いを伝えたところで迷惑だろうし」
違うと言いたかったのに出てきた言葉は別の言葉だった。
「そっか、オレと同じだね……」
同じ気持ち、傍に居たい。だけど今のままじゃ居られないから。泣きそうになる目頭を押さえる。ここで泣いても意味がない。
「いってらっしゃい!オレも頑張るから!……あ、これオレがバイトのお金で買った安物だけど……ヒロトの誕生日ケーキ!あとでこっそり食べてね!」
オレはヒロトにケーキの入ったビニール袋を渡すと回れ右をして走り出していた。
なにかヒロトはいっていたがもう聞こえてこない。流れてきた涙を見せることは出来ないから。




20210925











毎年オレの誕生日は絶対大事な仕事を入れるな、社長命令だと強く指示されている。別にもういい大人だから当日に祝わなくてもいいのにと思うのだが、ヒロトは譲らなかった。じゃあヒロトの誕生日は?というとオレが絶対に休みにするか半休に調整する。オレと同じように昔もいったけど気にしなくていい、緑川の誕生日を祝えたら嬉しいからと言っていたが今度はオレが譲らなかった。
オレの誕生日の日、ヒロトからは毎年様々なものをくれた。高価そうなものや役に立ちそうなものまで。遠慮しても受け取るまで非常に面倒な精神攻撃をしてくるので(あからさまな凹みとため息、悲しそうな視線を向ける等)、最近は素直に受け取っている。
そして今年もオレの誕生日かきた。今年は何を渡すのだろうかと思えば、大きなホールケーキだった。
「緑川誕生日おめでとう!」
「え、あ、うん……」
意外なプレゼントにうまくリアクションが出来ないでいると、心配そうな顔をされたので頭をブンブンと振った。なんだかんだで結構ヒロトのプレゼント楽しみにしていた自分がいたことが恥ずかしくなる。
それにしてもどうして今年はこれなのだろうか?
「ヒロト!ありがとう!にしても大きなケーキだね!……どうして今年はケーキなのかきいてもいい?」
「ああ、緑川も毎年オレの誕生日にケーキとプレゼントを渡してくれるよね。プレゼントはともかくなんでケーキも渡すのだろうかと考えて、自分も今年は渡してみることにしたんだ。それでさっき分かったよ」
ヒロトは話しながらケーキにろうそくを立てていく。その数はオレの歳の数分だ。
「緑川は自分だけの誕生日ケーキをプレゼントしたかったのだろう?おひさま園だとまとめてになるから喧嘩にならないようにろうそくはなかったしプレートもまとめて名前が書かれる。だからオレにオレの誕生日だからこのケーキって意味合いで贈ってくれた」
ああ、ヒロトはオレの誕生日への気持ち伝わってたんだ。途端に泣きそうになってグッとこらえた。
「オレが自分の誕生日を好きになってもらえるように。昔オレと誕生日の話をしたこと、緑川も覚えているだろう?あとケーキを買ってきて一緒に食べられなかったことも」
ずっと二人とも触れてこなかったあの日のこと、ヒロトの秘書になってからようやく叶えられたからとケーキを贈ったのはその意味もあった。
「緑川、生まれてきてくれてありがとう。オレと出会ってくれて、そしてーー」
オレはたまらずにヒロトに抱きついた。ヒロトの言葉の続きを知っている。オレが先に言いたい。
「オレを好きになってくれてありがとう!ヒロト!」



20210926







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