いないから寂しい部屋【創作BL】◆



 
アパートのショウの部屋に入った時に寂しいと感じた。実家の部屋は物が多く写真や思い出の帽子、好きなアーティストのポスターが飾られていて、今更ながらあの空間は空間で大切な場所だったと分かる。
寂しいと思った瞬間に、気まずそうな顔をしているショウをみるとあの頃の僕のお兄さんのような存在がもう原型も留めていない。今はただ、すごくーーーー。
「今、お茶を用意するから。そこら辺に座ってて」
「あ、うん」
床に散らかった仕事関係のものや食べたあとのお菓子の袋があったがそれ以外は何もない部屋で、つけっぱなしのテレビに目がいった。テレビはよくわからない動物関係のバラエティー番組が流れていて、猫かわいいなくらいしか頭に入らなかった。黒いテーブルにトンと薄水色のコップが置かれた。ショウはテーブルの直ぐ側にあるベッドに座る。
何も言わないショウを横目に出されたお茶を一口飲んだ。すると、それをみていたショウの瞳からぽたりぽたりと涙が溢れ始めた。
「ショウ?!ど、どうしたの……!?」
慌ててショウの元に駆け寄るが、自分が泣いていたことに気付いてなかったようで自分で頬を触ってようやく気付いた。
「え、あれ……ご、ごめん。止められないや……本当にすまない」
ショウは僕に向かって泣いたまま腰を曲げて頭を下げた。頭を下げられてもどうして泣いているかが僕には分からない。頭を上げてくれといってもショウは下げたまま落ちた涙はショウのズボンに薄い黒い点をつけていく。
泣いていることに謝っているわけじゃないとそこでようやく分かった。
「ショウ……あのね、ショウは僕のお兄さんにならなくていいよ」
「え、アキラそれはどういう……」
ようやく顔を上げたショウの顔を僕は思いっきり抱き締めた。そして子守唄を聴かせるかのようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
「ショウがショウの実家を出てから僕はショウの両親に、僕は大丈夫ですってことを説明したんだ。何度も時間をかけてさ。もちろん僕の両親と仲良かった二人は、それでも心配だからと頑なに養子に拘っていたんだけどつい今朝、やっと分かってくれた。条件付きだけど、僕とショウは急に出来た兄弟じゃなくなる」
ショウはビクッと身体を震わせた。僕は腕を緩めてショウの頬の泣き跡をなぞった。
「アキラ、それってーーーー」
「僕はショウが好き。恋愛的な意味で。……でもこの気持ちが邪魔なら、煩わしくて実家に居られないなら、僕はあの家を出る。家を出て遠い場所で暮らすから」
僕は笑っていようとした。笑っていればショウが心配することもない。グッと我慢して出かかった涙を食い止めるとこれ以上は話すことができなかった。
「ーー邪魔なのはオレの不甲斐ない気持ちだ。なにもお前は悪くなかったのに、オレが勝手に逃げ出した。お前を一人にした。一人にしたくせに……オレは一人じゃ嫌なんだアキラ」
 
ショウはそう言って、僕の腕を引いてキスをした。軽いキスではなく、深い深いキスを長く。息するタイミングが分からなくて、自分じゃない声が出た。するとショウはフフッと笑って頭を撫でた。
「アキラ、一緒にいてほしい。オレの側に、ずっといてほしいんだ」
 
ああ、やっと。
 
アキラはこくんと頷いてショウの袖を掴んだ。



20210924




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