いない人【吹雪兄弟】



※アレス軸です。
お題「墓までもっていくつもりだったのに」



幼い頃に両親にきいたことがある。どうして墓参りしなくちゃならないの?家にも仏壇があるのにと。
父は僕の頭を撫でながら優しく微笑んだ。
「お墓の中で眠る人も家族に会いたいだろう?……それに彼岸はあの世とこの世が近くなるんだ。家にいて待っているよりこっちから会いに行った方があっちの人たちも嬉しいはずだよ」
父の言っていることはイマイチピンとこなかったが、でもお供えされたお菓子を食べられるのは嬉しいと隣できいていたアツヤは無邪気に笑っていた。
 
 

 
 
「親父たち無理そうだって?」
「うん、なんか渋滞にハマっちゃったって」
僕は電話を切って、持ってきていた紙袋からお供えの花やお菓子を取り出していく。アツヤは汲んできた水の入った桶から柄杓を使って水を掬い、墓に置かれている花入れを取って適当に洗って、水を入れて元に戻した。
僕はその洗い終わった花入れに持ってきた花を入れる。アツヤはその間に布巾で墓石を拭いていた。拭き終わったのを見て、僕はお菓子を添えた。
二人とも何も言わずとも出来るようになってしまった。墓参りが好きというわけじゃなく、なんだか居たくなる気持ちになってしまう。
アツヤもきっと同じなのだろう。
ライターで二人分の線香に火をつけてアツヤに渡して、先にアツヤが墓に線香を添えて手を合わせていた。弱い小さな白い煙と線香の独特のニオイで急に目の前がぼやけた気がした。
「次、アニキの番だよ」
その煙の中からニッと嘲笑うアツヤをみて何故か涙が溢れそうになったのだった。



20210923





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