月隠れのタイムリミット【蘭マサ】



※付き合ってます!
お題「呼んだらきてくれる?」




「誕生日何してほしい?」
電話越しにきくセンパイの声はまだ慣れない。狩屋は大きく輝く月を見上げて、肩を窓に寄せた。
「まだ結構半年くらい先ですよ。というか自分でかんがえたらどうですか?」
誕生日を祝われると余計な思い出が引き出されそうで好きじゃない。おひさま園でも遠慮してもらっていた。この前霧野センパイの誕生日を雷門の仲間内で祝ったときに誕生日をいつだと訊かれて答えたら怒られた。
本人曰く、付き合っているのに恋人の誕生日を知らない自分が恥ずかしかったと言い訳をしていた。
それ以来、度々この話題が出るようになった。

「考えて間違っていたら嫌だからきいているんだ」
怒った風に言っているが、もうその態度はきっとオレに対しての癖みたいなものなんだろう。まあ最初の印象が悪かったよなあと振り返りつつもああしなきゃ自分が自分で保てなかったのもある。
センパイはおそらく理解して、怒らないようにと思っているみたいだが時々出てしまう。
「……でも考えてほしいな、オレがセンパイからしてほしいこと」
ボソリと呟いた言葉に、だんだんと自分が恥ずかしいことを言っていることに気づいて顔が赤くなっていく。
「ま!い、今のナシ!!考えなくていいです!どうせ分からないでしょうし!!いや、えっとそうじゃなくて……!!!」
滑りまくった言葉はさらに身体を熱くさせて汗がドッと出た。恥ずかしすぎてもう電話を一旦切るかと思っていたら、真剣そうなセンパイのオレを呼ぶ声が聞こえてきた。
「……なあ狩屋、オレは多分まだまだ全然お前を理解できていないと思う。だけどな、オレは今お前に会いたいと思っている。電話越しに話すだけじゃ勿体ない、会って抱き締めてやりたい。それは…………お前も同じじゃないのか」
人をからかうなんてこの人は得意じゃない。だからこんなこと、言えるのだ。
ゴクンと唾をのんで、両手でスマートフォンを支えた。
数秒後のオレの言葉にセンパイはただ分かったと言われて電話を切られた。
 
「……理解できていないっていう割には分かってるんだよなあ……」
大きな月が雲に隠れた。きっと今なら見逃してくれるだろう。
センパイの気持ちにオレだって答えたいのだ。
狩屋は家をこっそりと抜け出して暗い道を走り出す。

「オレが今、会いに来てほしいといったらきてくれますか?」
センパイもきっと反対側から走ってきてくれるだろう。月が顔を出す前に。




20210922




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