幽霊の恋 1【基緑←吉良】



※FFI決勝戦前






「こんにちは緑川君」

そいつは練習途中に突然現れた。容姿はヒロトそっくりで白いユニホームを着ている同い年くらいの。本当にヒロトそっくりだが、オレの知ってるヒロトじゃない。

「誰?」

吹雪が呼ばれてからしばらく経った時にオレはこいつに出会った。ヒロトとの約束を守るため、最後まで諦めたくないという思いが幻想を生んだのだろうか?と初めて見た時思っていた。

「嫌だな、ヒロトだよ。」

「嘘だ。ヒロトは今FFIで日本にいない。それにお前はヒロトじゃない。」

緑川は冷たく言い放った。

「何言ってんの。僕はヒロトだよ。ま、君の思うヒロトではなくその起源のような感じかな」

「起源…?」

緑川は少し考えてる素振りをして、やがて分かったように目が見開いた。

「!!父さんの亡くなった息子…!?」

そうだ、それなら似てても不思議ではない。昔写真で見たことがある。それよりか少し成長したように見えるが、ヒロトにそっくりで本当に驚いた。ヒロトは似てるでしょと笑いながら言ってたけど、その影に寂しさがあったのを覚えている。「けど、亡くなったはずっ!」
緑川は混乱した。やはり自分が生み出しちゃった幻想なのかと。それほどヒロトに会いたいのかよと。カアアと顔が赤くなっていく。吉良はその様子を見ながら、クスリと笑った。

「そう僕は死んでいるよ。だけど、ちょっとラッキーなことがあってね、君にとり憑くことでこちらに来れるようになったんだ」

よく見ると足が浮いている。影もない。

「というわけでこれからよろしくね」

緑川は微笑む吉良に言葉が出なかった。何がなんだか分からない。ラッキー?とりつかれた?頭がこんがらがった。
こうしてオレは吉良ヒロトにとり憑かれたのである。











吉良にとり憑かれて数日が経った。

その間に分かったことがいくつかある。まず、吉良はオレからあまり離れることが出来ないらしい。
「君の魂にとり憑いているわけで、離れすぎると僕に魂が引き寄せられるから抜けてしまうんだ」
へらへらと笑いながら吉良は言った。冗談じゃない。それはオレがお前みたく幽霊になるってことじゃないか!と怒鳴ると、幽霊より危ない状態だよ望んで魂だけになったわけじゃないんだからと言われ、寒気がした。次に記憶に関してだ。生前の記憶はあまりはっきり覚えていないようだ。しかし、死後の出来事は覚えていた。ある日、夕飯にキムチが出た。
「うわあ…」
と嫌な顔した緑川を見て吉良はクスクスと笑い始めた。
「今でもキムチダメなんだねー」
「いいだろ!…ていうかよく知ってるね」
緑川が不審がると、
「ああ君達のことをずっと見てきたからね」
とにっこり笑った。
ちょっと疑問に思っていた写真より成長した姿もそれに関係しているのだろう。
最後に何故オレにとり憑いたかだ。何度訊いても答えてはくれなかった。
「君と波長があったからだよ」
などと適当なことしか言わない。本当何しにとり憑いたんだ。
慣れというのは怖いもので数日でこの状況に慣れた。
多々吉良とは喧嘩する(主にヒロトのことを悪く言うからだけど)が、サッカーの話に乗ってくれるし、やっぱりちょっとヒロトの面影がある気がする。





「明日はいよいよ決勝だなーイナズマジャパン」

緑川は準備体操をしながら言った。

「そうだね…」

背中を反って吉良と目が合った。ヒロトの深い緑に少し青を混ぜたような色の瞳。ヒロトも儚げな雰囲気があるが、吉良は透けていると思っちゃうほど儚い。

「ブラジル戦は新しい技完成させて目立ったし、明日も沢山活躍するといいな」

「本当にそう思っているの?」

吉良が後ろから言った。身体が一瞬固まる。掛け声が弱まる。

「ねぇ、本当は自分も居たかったんでしょ?あの場所に。ヒロトの隣で」

後ろは振り返りたくなかった。振り返ればそっくりの吉良がいる。すべて心の内を見られてしまう気がした。

「…そのことは否定しないよ。でも、それとヒロトの活躍を願うのは関係ない」

準備体操を再開した。嫌な汗がかいて気持ち悪い。

「そうだね、君がこうやってどんなに練習しても時すでに遅し。基山との約束も破られる」
約束ということばに反応して振り返ってしまった。
振り返った先に、待ってるからと約束した人に似た吉良ヒロトがいる。自分を追い詰める回路がどんどん作動する。代表から落とされる。努力しても呼び出しはこない。ヒロトの隣に相応しくない。じわりと頬が濡れた。

「一雨降るね」

灰色にくすんだ空を見上げて、吉良は言った。

「君は本当にイナズマジャパンが優勝したら喜ぶの?ヒロトが自分がいないチームで笑ってる姿を喜べるの?」

言葉が出ず、色が濃くなる地面を見つめた。

「こんなにキツいこと言ってごめんね。僕はそろそろ戻らなきゃいけない」

え、と口からこぼれた。雨はだんだん強くなり、朝だというのに暗くなって、吉良の白い肌をより強調させていた。
吉良の表情がいつだったかのヒロトに似ている。そうだ、宇宙人になって離れなければならなかった時にみた。傷つけていること分かっててそれでもそうせざるおえないという、あの時の。

「僕は基山ヒロトが憎いんじゃない」

吉良はにっこりわらった。

「君を傷つける基山ヒロトが嫌いなんだ。もし君が…いやこれは言わないでおこう。僕といて基山ヒロトと一緒にいた気分になった?」

雨の音は強いのに吉良の声はちゃんと耳に届く。

「全然。…でもお兄さんぽかった。楽しかった」

素直な言葉が出た。

「お兄さんか…それでも嬉しい、かな」

「うわっ」

一瞬風が吹き、横殴りの雨に気をとられた。
目を開けると目の前にいた吉良は消えていた。

「わけがわからないよ」

最後に傷つけといて嬉しかったって言って消えちゃって…。降り注ぐ雨水が痛かった。





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