流す歌に癒やせと【奏慎】



※付き合ってない
お題「心の痛みの鎮痛薬」



 

時々くるズキズキとした痛みは何のせいだろうか。奏の嬉しそうな顔を見る度に心が痛くなる。前まではそんなことはなかったのにどうしたというのか。
これが俗に言う恋煩いというものか……?と考えてもピンとは来なかった。えんがわに対するあの見た瞬間、食べた瞬間の高揚感が恋というものに似ていると考えてきた。
しかし高揚感はなくただ口内炎のように気になる痛さなのだ。
「慎くん最近元気ない?」
ロケ中に話しかけられた。隣にいた奏は心配そうな顔をしている。
「あ、いや……ただ口内炎のようなものが出来たから気になるだけだ」
「えっ!そうなの!あれって地味に痛いよねーー」
と奏は前に自分が口内炎が出来てそれをきいて、『何も考えずに食べてるからだ!』と純哉に怒られた話をした。オレは笑いながら話を聞いていたのに、痛みはやはりやってきた。これでは参ってしまうなと思っていると、顔に出てしまったのか奏が慎の袖を引っ張った。
「ねえ、今日仕事終わったあと時間ある?きいてほしいものがあるんだ」
あると答えたと同時にスタッフから声が掛かりロケが再開された。
 
 
仕事が終わったあと奏に連絡すると事務所の屋上で待っているとのことだ。屋上につくと、スマホをタップしている奏がいた。
「あ!慎くんこっち!こっち!」
手招きされて隣に行く。スマホの画面が少し見えて、表示は大きな音符のマークがあった。きかせるというものは曲だろうか?
「あんまり大きな音出せないけど聴いててね」
奏がポチッと押すとピアノの音が聞こえてくる。最初のイントロで分かった。
「これは……2032か?しかもピアノバージョン?」
「そうそう!知り合いの人がね、この曲が好きで弾いたものを送ってくれたんだ」
綺麗な旋律に心がすごく落ち着く。そういえばこの曲は別れの痛みを知って書いたものだった。あの頃とは違う痛みを今は抱えていて、その傷に不思議と効いていく。
いつの間にか奏が隣で口ずさみ、慎も歌いだした。
とても気持ちが良い。目の前に広がる夜空は星が見えずにただあるだけなのに輝いてみえて清々しい。
隣をみると明るい笑顔がこっちを向く。
ああ、好きだな。
ただそれだけを1つ受け入れるだけでズキズキとした痛みは落ち着いていった。




20210917




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