混ぜ合わせ危険/今まで通りに【風宮】



※振られてます。
お題「君の顔をみてると退屈しない」



 
宮坂の気持ちを知りながら、会って話をしているのは悪いことだろうか。
普通なら距離を置いて前の関係に戻れなくなるのだろう。だが、宮坂がそれを許さなかった。
振ってしまったときに泣きながら『絶対今まで通りに接してください。一生のお願いです』と頼んだからだ。
付き合うことはできないがせめてその望みくらい叶えてやりたい。いつも宮坂の想いを汲み取れずにいたお詫びだ。

ファミレスで互いの近況報告をしながら、共通の知り合いの話をした。同じ陸上部だったあの人は全国大会で日本記録を更新したとか、後輩のあいつは怪我で陸上をやめて音楽やっているだとか。
「……風丸さん楽しいですか?」
宮坂が話を止めて訊いてきた。
「え、楽しいよ?お前と話していると、いろんなことを知ることができたり、お前のこと分かったり」
「そう、ですか……ならよかったです」
ピタッと止まった表情が解れながら嬉しそうに笑う。
ああ、いいな。こういうところ。
宮坂が笑うとなんだか安心してしまう。正解を選べた気がするのだ。
「あ、飲み物なくなったのでドリンクバー行ってきますね。風丸さんのも注いできますか?」
「ああ、うん頼むよ」
宮坂は自分のコップと風丸のコップを持って席を立った。
気が利くし話をしていて楽しいし、オレの方が“前と同じ関係”を保てて良かったと思う。風丸は良かったとその時は一人満足していた。
 
宮坂の想いを汲み取れていないことに数年後、打ちのめされるとは知らず宮坂がドリンクを持ってくるのを待つ間のんきにサラダを食べていた。



20210913


※振られてます
お題「立ち上がるのは大変なことだよ」


 
 
振られたんだと大泣きしても良かったのに出来なかった。ただ流れてくる涙に乗せて、甘えたお願いを聞いてもらった。
「絶対今まで通りに接してください。一生のお願いです」
鼻を啜りながら頼んだことを風丸さんはしっかりと守ってくれている。
中学の時の先輩後輩だっただけなのに、大人になった今もこうして会って話をしてくれる。昔と同じような気持ちがなくなったわけじゃない。今も好きだし付き合いたいと思っている。けれど、今まで通りにで接してと頼んだのだから、これ以上の距離、先輩後輩の距離感から一歩先になることはないのだと歳を重ねるごとに思い知った。
もう会えないだとかギクシャクした関係だとか一度手放した、壊れたのなら、また最初からをやり直せれば良かったが、自分が望んだのは壊すことも手放すことも良い方向へ向かうこともない停止の状態だ。
楽しい嬉しいと思いながらも胸はズキズキと痛かった。お互い忙しくなって、会う回数が減った時は正直ホッとしたのだ。
優しい風丸さんに会うのが辛い。どんなにそれっぽい雰囲気があってもそこに希望は持てないから。ああなんて自分は馬鹿なことを望み、そして風丸さんもこの望みに付き合ってくれているのだ。好きなの知っているくせにと恨みそうだ。
 
昨日までの夏の暑さは何処へやら、窓の外はしっかりと雨が降っており僕は温かいカフェラテを頼んだ。喫茶店の中ではしっとりとした音楽が流れており、僕はあまり来ないため周りをちらりと見てソワソワしながら風丸さんが来るのを待った。
こんなところで待ち合わせだなんて珍しいなと思いながらも、喫茶店でコーヒーを飲む風丸さんを想像して少しニヤけてしまった。
大人になってますますかっこいいなと前に掲載された雑誌の切り抜きの写真を携帯電話で見ながら思う。
そんなことをしているとカランカランと喫茶店の扉が開いて、本人が登場して僕はこっちですとそっと手を上げた。
分かりやすい入口付近に席を取っていて正解だった。風丸さんはササッと席について僕のカフェラテをみて同じものをと店員に注文した。
「悪い、待ったか?」
「大丈夫ですよー!それよりもどうしたんですか?今日はこんなところで待ち合わせだなんて」
「ああ、実はお前に頼みがあってな。ざわざわしたところよりはと……」
風丸さんが頼み事?なんだろうかと思っていると風丸さんは目を下に向けて手を前に組んだ。
嫌な話だろうかと笑っていた顔が止まる。
「あの、ずっと前にお前がオレに頼んだ『今まで通りに接する』ってやつ……あれを辞めにしないかと思って」
目尻に涙が溜まり、溢れそうなのをぐっと我慢した。なんでって言いそうな言葉も飲み込んだ。風丸さんが小声でえっとそうじゃなくて最後まできいてくれと先に言ったから。
「あの時からずっとあの頃の親しい後輩のように接してきた。……だけどさ、今はずっと我慢している。お前のこと、宮坂のことがもっと大切で……友情とは違う感情が自分の中にあるって気付いたら辛くなってきたんだ。だから……オレと付き合わないか?」
ああ同じ気持ちだったんだ。だけど、少し違う。今の僕は、
「ーー風丸さんごめんなさい。僕はまだ立ち直ってないんです。あの時の振られたことを」
僕は笑って続けた。
「どうしたら立ち直れると思いますか?」




20210915




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