ごめん【ひいあい】



※付き合ってない。寮のルールは適当
お題「嫌いになりそうなくらい好き」


喧嘩なんてあまりしたことがない。友達が全然いなかったからだ。
「ーーーーッ!ヒロくんのバカ!だいきらい!」
よくある捨て台詞を吐いて、藍良は自分の部屋へと閉じこもった。幸い同居人である先輩たちは仕事で今日は部屋には戻らない。
ベッドに入って毛布に包まってひとしきり泣いて起きたら、随分時間が経っていた。寮といっても普通の寮とは違って、決まったご飯や風呂の時間、外泊届けなどそういったものはない。アイドルたちのルームシェアハウスのようなものだ。
藍良は起きてのろのろと部屋についているお風呂へと向かった。湯船にお湯を張りつつ、洗面所付近にある自分のお風呂セットを取り出して服を脱いでいく。その間も今日喧嘩したことを振り返っていく。
言い過ぎたかもしれないが、やっぱりおれは悪くない。そうだそうだと自分の怒りを認めていく。カラカラとバスルームの扉を開けてシャワーを浴びて身体や頭を洗っていく。自分の嫌なところが少しでも流れるようにと綺麗にしていくのは結構好きだ。
「嫌いだなんて言わなきゃよかった」
ポツリとシャワーの音に紛れて本音を流していく。あの時のヒロくんの傷付いた顔が頭から離れない。嫌いじゃない、嫌いなんて嘘だ。
すぐ否定すればよかったのに、引っ込みがつかなくてその場から逃げ出した。
また泣きたくなってきたなと思うとピピッとお湯が張れたことを湯沸かし器がお知らせした。
身体を流して藍良はゆっくりと足を入れて湯船へと沈んていく。
「んー!きもちー!」
背伸びをしながら肩までお湯の中へと入っていく。
温かいお湯の中、冷たくなっていた想いも溶けていく。
嫌いなんかじゃない、好きだ。大好きなのに、おれ自身がポンコツだからいつかヒロくんに置いていかれないかって心配で、いつかおれを見てくれないんじゃないかって不安で、成長スピード度の早いヒロくんが怖かった。
パシャンと腕を湯船から出して天井へと伸ばす。
そう、怖いのだ。おれのところから巣立ってしまうのなら嫌いになった方がまだ気持ちが楽だ。好きなのにどこかへといってしまわれたら、辛い。
「謝ろう……ちゃんと」
どこにもいってほしくない、好きなままでいたい。全部伝えよう。きっとヒロくんはそのまま受け止めてくれるかもしれない。

 
湯船から上がって髪を乾かしていると、トントンとノックする音が聞こえた。藍良が部屋の扉を開けると、すごく申し訳なさそうな顔をした一彩が立っていた。髪が少し濡れているから一彩もお風呂から上がってすぐ来たのだろうか。
きっとおれと同じなんだろう。
「藍良、あの」
「ヒロくん……今部屋に誰もいないから入って……多分おれもヒロくんと同じこと言いたいから」




20210904




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