見えないもの【いつ純】



※付き合ってない
お題「傷だらけじゃないか!」



 
アニメ映画の吹き替えの仕事がきた。役は主人公の親友のクマの役だった。
「いつき、おつかれ!今日そういえば吹き替えの仕事だったよな?どうだった?」
「はい……慣れない仕事で不安もあったんですが、なんとかなりました」
仕事が終わって事務所に戻り屋上でぼんやりとしてたら純哉がきて声をかけた。
「そっか、よかったな。だけど、なんでそんな浮かない顔をしているんだ?仕事のせいじゃないのか?」
純哉は心配そうに首を傾げた。
「そんな顔してますか?」
「ああ、仕事がうまくいって安心したとかよかったとかそう思ってるような顔に見えない」
よく見てくれているんだなといつきは口元が緩んだ。顔に出てしまったのは少し失敗だったが。
「んーどうなんでしょうか……仕事は本当に無事に終わったんです。ミスなくってわけでもないんですけれども、監督にも『君にしてよかった』と言ってもらえましたし……役に感情移入しすぎちゃった感じですかね」
純哉から視線を逸して灰色の地面が目に映る。
主人公のハリネズミと仲良しのクマ。だけど、ハリネズミが急に後ろを向いたりすると背中のトゲが足に刺さる。クマはそのことをじっと耐えたのだ。何も言わずに笑っていて、それはハリネズミくんに嫌われたくないからだ。
結局は他の親友の子に本当の事実を伝えられ謝られてしまう。
少しの沈黙の後、純哉がなあ、と声を掛けるのと被さっていつきは口を開いた。
「公開されたら一緒に観に行ってくれませんか?」
「あ、ああ……!もちろん!楽しみだな!」
何も知らない、知ってほしくない愛しき憧れは無邪気に笑う。
それをみて微笑む隠した傷跡は痛みなどもはや分からなくなっているのだった。



20210901




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