海の日【奏純】





「純哉くんに負けてたまるか!」
「は、それはこっちのセリフだ!」
バシンと高い音が鳴り、青と白のしましまのボールは綺麗な弧を描いて相手コートへと入る。夏の日差しなど関係ないといった感じで、二人の視線はボールへとまっすぐ向けられていた。ワーワーと二人以外の声も飛び交う砂浜の上、何故オレたちがネットを隔てて対決している経緯はどうしてだったか。そんなことを思い出そうとするとポンとボールは純哉の元へと落ちてきて、自分より十センチも低い小麦色の少年の位置を確認し声をかけた。
「シュウ!決めろ!」
「はい!」
パンと叩いたその先に奏が走ってきていたが、間に合わないはずだ。案の定、ボールは奏の指先をかすめて砂浜の地面へと落ちた。その瞬間シュウはやったー!と叫んだ。オレは両手を上げてシュウに向けるととても嬉しそうな顔でジャンプしてハイタッチした。そうだ、オレたちはこの子たちに頼まれてビーチバレーをすることになったんだ。
オレは奏たちに目線を向けてニヤリと笑った。
「よし!これで奏たちに追いついたぜ」
「くそー……。ごめんね、アキラくん」
奏は隣にいる綺麗なマロン色をした髪のシュウよりは焼けていない少年に謝った。
「……ううん!奏さんはすごいよ!僕も頑張るね!」
アキラは転がっていったボールを拾いとても良い笑顔を見せてくる。奏よりしっかりしていそうだ。
確かシュウとアキラは小学六年生でこの近くに住んでいて、奏と純哉にビーチバレーしないかと声をかけてきた。なんでもどちらの言い分が正しいかを決めたくて勝負をしたいが、海での水泳対決は危ないからちょうど持っていたビーチボールで勝負をすることになった。しかし二人だけじゃ難しく、ちょうどオレたちを見つけて手伝ってほしいと頼んできたのだった。
オレは最初乗り気ではなかったが、奏はすぐにやりたい!と言い出した。
「お前なあ……今日の目的分かってるか」
「う、それはそうだけど……でも困っているなら放っておけないじゃん。おねがい!純哉くん!」
キラキラとまっすぐな奏の瞳に、オレはハアとため息をこぼして少年たちを見た。
「オレたちが誰か知っているか?」
「え、知らない……。お兄さんたち有名な人なの」
二人とも首を傾げた。良かったような悲しいような気持ちになりながらもそれならいいかと決めた。
「いいぜ、手伝うよ。だが、オレたちはあくまで助っ人だからアタックはしない。お前たちが相手コートにボールを返すこと。あとオレたちはサーブを強くは打たずにラリーを続けられるようにする。奏、それでいいよな」
奏はうんうんと何度も頷き、少年たちは大きくうんと返事をした。



――――――点数が並び、次にどちらかが一点取れば勝ちというところまできた。
奏・アキラチームがサーブの番だ。奏がボールを下から打ってボールはこちらのコートへと落ちていく。純哉がレシーブしてシュウがボールを相手コートへと返す。
汗が顔のふちを伝って顎へと流れる。
「アキラいっけーー!!」
トスした奏はジャンプするアキラに向って叫んだ。顎に溜まっていた汗は純哉の動きに合わせてポタポタと飛んでいく。次にボールが落ちてくる場所、シュウのいる位置、奏が取れそうにない狙い目部分を一気に考えてどこにボールを上げるべきかを判断する。
アキラが打ってきたアタックをしっかりとトスをするとボールは高く夏の空に浮かび、シュウはジャンプしてエイ!とボールを力いっぱい打った。
ボールは狙い目通り奏の取りにくいアキラとコートの枠の間をすり抜けていく。
シュウはボールが相手コートに落ちた瞬間にやったー!と喜び、ぴょんぴょんと跳ねた。
「やったな!シュウ!」
「うん!ありがとう純哉さん!」
純哉が手を上げるとシュウはその手をパチンと叩いた。奏に勝てて良かったがそれ以上にシュウがこんなに喜んでくれてオレも思った以上に嬉しくなった。シュウは跳ねて喜びを身体いっぱいに表現している。一方で相手コートでは悔しそうに下唇を噛む奏の姿が見えた。
「アキラくんごめんね、オレがうまくトスを上げられなくて」
奏がアキラに謝るとアキラは首を振った。
「……悔しいけど奏さんのせいじゃないし、それにオレ、奏さんと出来てすっごく楽しかった!」
アキラはそう言って笑っているとアキラの後ろからシュウがカバッと腕を回した。
「それ分かる!オレも楽しかった!で……結局なんでこんなことしてたんだっけ」
「……シュウ、忘れちゃったの?でもまあ、オレももういいや。お二人ともありがとうございました!すっごく楽しくて二人とも上手くて……やっぱアイドルって凄いんですね!」
えっと奏とシュウは驚いている。オレはずっと敬語だったのが気になって、なんとなくそうだったらいいなと思っていた。シュウは奏と純哉の顔を何度も往復して思い出したようだ。
「アイドルって、あ!あの番組に出てる!」
「次の放送も楽しみにしてますね」
アキラは混乱しているシュウを引っ張りながらボールを持って帰っていった。奏と純哉はそんな二人が見えなくなるまで手を振った。

「気付いていたんだね、アキラくんは」
「そうみたいだな、最初から知っていたというよりは勝負していて気付いたっぽくみえたな」
夕日が暮れている海の波打ち際を二人は歩いていく。結局海に入らずに終わったなあと海を眺めた。次に来るときはまだ海に入ることができるだろうか。
「純哉くんごめんね、今日二人で遊ぼうって言ってくれたのに」
「まあ別に……オレも楽しかったしさ、それにビーチバレーなんて久々にやったわ。海に来る=サーフィンするってなってたし。奏ってほんと何事にも一生懸命で人に好かれやすいよなあ……」
「えーそうかなあ。そう思うなら純哉くんもそうでしょ?シュウくんのこと今日会ったばかりなのにどこにトスを上げたらいいかとかいろいろ考えてやっていたでしょ。最初乗り気じゃなかったのにさ、オレすごいなあって思ったよ。純哉くんがいるからオレもきっといろんなことに熱くなるんだ。負けたくないってさ」
奏は立ち止まって純哉の手を取った。
「だから、また勝負してよ。今日負けたの悔しいし」
えへへと笑う奏が夕日に照らされて、湧き上がってきた想いに胸が苦しくなった。喉から出そうになるワードをグッとこらえた。
思わず言いたくなる愛しさを繋がれた手に力が入る。
「――――今度だって勝ってやるさ」
「うん、オレも負けない」
海風吹く海の端に星が見え始めていた。





20210816




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