格好悪くても/分からなくてもいいよ【蘭マサ】



※一学年上がってます。一応付き合ってます。
お題「君の悪いようにはしないから」



言わせたのかもしれないという後ろめたさがずっとつきまとっている。自分から離れた大切な人の背中を知っているからこそ今度こそ離れてほしくないし、最初から離れるなら近づいて欲しくない。
18時過ぎ、まだ歩けばじんわりと汗をかいて日がようやく傾き始めた頃、センパイと並んで帰るたったの15分間。
たった1歳の違いだけで、この夏の意味合いが変わるのだ。
「明日からも頑張れよ。狩屋」
「分かってますって」
蝉の五月蠅さも遠のいて、違う虫が鳴きそうだ。きっとそうやって景色も変わり、オレたちも変わっていく。
「最後はオレとお前でディフェンダー出来てよかったよ。試合には負けてしまったけれど」
「センパイが格好つけようとしたからですよ、あのシーン」
「はは…………狩屋の前だから格好つけたかったんだ」
ドキリと跳ねた心臓は見えていないだろうかとセンパイの顔を覗き込むと、ニコニコとしている。疲れたとか悔しいだとかそんな負の感情もなく爽やかだ。どうしてそんな笑っていられるのだろう。オレにはやっぱりセンパイのことはよく分からない。
「狩屋、オレは別れてやらないからな」
「はいはい」
別れましょうと言ったのはオレの方だ。揺らいだ気持ちのまま付き合って、センパイの真剣さに背中を向けてしまった。誤魔化せない自分の気持ちと不安に耐えられなくなったからだ。
だけどセンパイは嫌だと拒否した。
「何故好きなのに別れなきゃいけないんだ」
正直に別れたい理由を言ったのに受け入れてもらえずに、センパイは今日部活を引退した。
大きな接点が今日で終わる。センパイが別れたくないといっても会えなくなる時間が増えればそれも薄れてしまうだろう。
オレが今、親に会いたいかと聞かれたら……即答できないくらいに。
長く伸びていく二人の影がピタリと止まる。後ろを振り返って、センパイは濃い影の色をした手をオレの頬へと伸ばした。
「お前の悪いようにはしない。いや、したくないんだ。だから……お前はオレのものだ。忘れるな」
「めちゃくちゃ身勝手ですよそれ」
「お前のイタズラに比べたら可愛いものだろ」
引き寄せられるかのように唇を重ねた。別れたいと言っていた口は抵抗しない。むしろオレから求めている気さえした。
好きだから、怖い。だから別れて。
「ああなんで、センパイは格好悪いんですかね」
飲まれた影は夕日に消えていった。





20210810







 
別れたくないなどとセンパイがいうからオレは別れるからと意地を通したくなるのだ。大人になって受け入れてくれればいいものの、そういうところはいつまで経っても子どもなのだ。
実際に距離が出来てこのまま離れるだろうと思っていた。
いつの日か我慢できずに話した夏の帰り道を久々に通っている。高校に入ってから寮に入ったのでこの道を通らなくなった。濃い影を落としているT字路のところまでが甘くも苦く感じる道程だ。
オレンジ色に染まっても背中を流れる汗の感覚があるほどまだ暑い。狩屋は塞がっていない手でパタパタと服を動かして背中に風を送る。
「お前って結構暑がりだよな」
下に結んだ片方の髪束が揺れてふわっとした匂いが香ってくる。香水でもつけているのだろうかと思ってしまうが、彼はそんなものをつけない。
「センパイは暑くないんですか」
「んー……暑いよ。お前と手を繋いでいるから」
「またそういうことを言う。あそこの別れ道迄ですからね、手を繋いでいいのは」
狩屋ははあとため息をこぼした。もう昔みたいにすぐ赤くならなくなったのは良かったが、ドキドキする胸の内は今も変わらない。 
別れてほしいと願ったのにセンパイは決して首を縦に振らなかった。狩屋も意地になって連絡を取らなくなって数年経った頃に、また狩屋の前に現れたのだ。それからまたこうして手を繋いでいる。
センパイはきっと、オレに時間をくれたのだ。いろんなことを考える時間を。そして時間が経ってもこの関係はまだあるからとセンパイは証明をした。
変わらずに恋人でいてくれた。別れないからとずっと言っていたセンパイの勝ちだ。
「センパイはオレのものでいてくれて良かった」
「オレのものってお前なあ……。まあいいよ、オレだってお前はオレのものだ」
狩屋が静かに流す涙をセンパイは見ないふりをして繋いでいた手を恋人繋ぎへと変えた。





20210818






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