彼はいつも明るかった。
昔から友達がいない僕に比べて、沢山の人に囲まれていた。晴矢が笑えば皆も笑う。そうやって伝染してしまう。
僕もその一人だった。晴矢の笑顔を見るだけで幸せだった。
けれど、その裏には苦しいこと辛いことを隠していると分かっていたのは、多分僕だけだ。
その優越感が心地よかった。晴矢と僕を強く結び付けている気がして。
韓国にきて数日たったある日の練習後、アフロディと少しばかり話をした。
「南雲君って実は努力家なんだね」
「フン、ヤツのどこが努力家なのだ?」
知らん顔して言っているが内心ドキドキした。晴矢の何を知っている?と見栄を張りながら、それを当てられるのが風介は怖かった。
「知らないの?彼、練習終わってもこっそり合宿所の裏の公園で特訓していたり、他のチームメイトと言葉に苦戦しながらもコミュニケーションとったり、結構ああみえて凄いんだね。僕最初ただの熱い奴かなと思っていたけれど、周りをよく見て自分も見てる」
風介は一つ一つ心の中で知っている知っていると呟いてた。知っているのに他人に知らないから教えられているという状況に苛立つ。
「君はプライドが高いよ」
アフロディは指をさして言った。
「君の方こそ」
「ああ僕はねー高いことがポリシーだしステイタスなの」
にっこり笑って風介に顔を近付ける。
「ただ君はね、プライドが高すぎてあらゆることを邪魔してる。プレーにも表われている。僕は生かせるからいいけど、君は生かせてないよ」
「五月蠅いっ!!」
ドンっとアフロディを押し退けた。
アフロディの金色の髪がさらりと舞う。
そんなことは知ったことないと合宿所に向かって歩く。
「そういう神経質も悪い」
溜め息混じりにアフロディは言った。
何故あんなこと言われなければならない!何故だ!
部屋の扉をバンッと閉めた。
タイミングがいいのか悪いのかベットにいた同室だった晴矢がビクリと身体が動いた。
「おい、ビックリさせんなよ!…なんかあったのか?」
まじまじと顔をみてきたのでそっぽをむく。
「別に!」
風介が自分のベットに潜り込む姿をみて、何かあったんだなとため息を一つこぼして晴矢は風介のベットのそばに近寄った。
「…なにあったの?」
晴矢はベットに手をかけ風介の顔をのぞきこむ。
間近でみる本当に心配している顔。
この優しさも表情も僕だけは特別に光ってて、僕のものなんだ。誰にもあげたくないし、分かってもらいたくない。
わずか数センチの距離がなんとなく嫌になって、上体を少し持ち上げ、その距離を埋めるため自分の唇を晴矢の唇に触れさせた。温かいぬくもりが感じられて、僕を包み込んでいく。
安心すると練習の疲れがドッと押し寄せてきて、睡魔へと変わった。
唇から離れて起こした頭を元の位置において、風介は寝息をたてはじめた。
晴矢は突然の出来事であったのにもかかわらず、不思議と落ち着いていた。
と同時に先を越された気分で、悔しくも思った。
「…晴矢は僕のもの」
風介の口から洩れた。
「ああそうだよ、お前のもんだよ。そしてお前はオレのだ」
幸せそうに眠る風介にそっと毛布をかけてあげた。
20110329
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