失って得られても【蘭マサ】




※霧野高1、狩屋中3設定で付き合ってます。
お題「届くところにいてよ」




「来年にはセンパイ、いないんですね」
「なんだ、寂しいのか?」
「……そんなんじゃないです。あー清々する!」
お前はいつもそうだなあとオレは軽く笑っていて、狩屋も同じように笑っていた。届く距離にいたから安心したのだ。届く距離にいなくても狩屋なら平気だと勝手に思っていた。蓋を開けてみればどうだ。
ーーーー平気じゃなかったのはオレの方だった。

高校生と中学生でとにかく時間が合わない。こんなに合わないものか?と思うほど、ただ電話やメッセージのやりとりが繋いでいく日々だった。
そんな中で狩屋は絶対に“会いたい”だなんて言わないのだ。だからオレから「会いたいな」と言っているのに、狩屋は難しいですねと軽く流していく。昔みたいな生意気な狩屋がよっぽど懐かしいくらい、気に留めない程のスルーさにどうして?と言いたかった。もしかしたらもうこの関係が嫌なのかもしれない。ただの気の迷いだったと思ってるかもしれない。分からない狩屋の心にヤキモキしてしまう。だからつい、言ってしまうのだ。
「なあ、狩屋。嫌になったらいつでも別れていいんだからな」
「まーた、それですか。なんでオレが嫌になる前提なんですか?センパイこそオレのこと嫌になってるけど、自分からは言えないから……みたいな人任せなアレですか?はあ、もう」
電話越しに聞いても明らかに狩屋は苛立っている。やっちゃったなと霧野は頭を掻いた。こうなったらちゃんと取り繕わずに話すのが良い。
「いや、お前がオレを嫌いになるならあり得るし……」
「なんでですか?オレだって暇じゃないんだからこんなことしないでしょ」
ああ、うまく言葉にしづらい。神童のように日頃から本を読むべきだったなと後悔しても遅い。今は今、頭の中に散らばったピースをうまく繋げなければ。
「不安なんだ……。互いに予定も合わずにこのところ会えないし、オレが『会いたい』といってもお前は当然のように無理ですねって答えるし……お前のこと好きだから余計に寂しいんだ」
やっとうまく纏まったかな?と思っていると、狩屋から何の反応もない。こんな年上から言われて飽きられたか。
オレがもう一度言い直すかと口を開こうとすると、プッと吹き出す音が聞こえてきた。
「か、狩屋?」
今度は思いっきりワハハと笑っている。何が面白かったのか分からずに戸惑っているとやっと狩屋が話し始めた。
「昔センパイ、オレに言ってましたよね?離れて寂しいのかって。でも結局寂しいのはセンパイの方じゃないですか!あの時はなんだか随分と年上ぶるなって思ってたけど……あはは……」
「……そんな笑うことじゃないだろ」
あまりにも笑うからだんだんムカついてきた。
「だけどこんなことするもんじゃないですね。オレだって会いたかったし寂しかったし……あ」
狩屋はテンション上がっているのかつるっと言葉を滑らせた。
「分かった。今から会いにいくから」
「え、は?!今何時だってしかもどうやって……!?」
そんな狩屋の声を最後に電話を切った。ニヤける顔が止まらない。
会いたい気持ちだけで何も考えず夜へと飛び出してもいいだろうとオレは走り出した。





20210803




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