欲しい世界/消えた世界【蘭拓】





※付き合ってません。パラレルっぽい話なのでなんでも許せる人向け。
お題「夢で会えたら」



世界が終わるかもしれないと思ったときに真っ先に手を掴んだのが霧野の手だった。
「き、霧野……」
「神童はオレについてきてくれるの?オレの手はこんなに赤く染まっているのに」
見ればその手は真っ赤に汚れていてドクンドクンと胸の音がする。息を呑み込んで霧野をみた。その顔はすごく寂しそうでここで手を離したらどこかに行ってしまうと感じた。
手を離したくなかった。
「当たり前だ!霧野、オレは……!」
霧野の手を握り返すとそのまま引き寄せられ抱き締められた。錆びついた鉄の臭いが鼻をかすめる。
「ありがとう神童。でもオレは神童に生きていてほしい。幸せになって欲しいんだ」
トンと胸を押して、霧野は暗い底の見えない穴へと落ちていく。最後に言ってくれた言葉も聞こえないまま、唇の動きだけでオレは泣いたのだ。
 
 
チチチッ……と鳥の囀りで目が覚めた。白い天井みてだんだんいつもの自分の部屋にいることを認識していく。
ドクンドクンと自分が生きていることに躊躇った。霧野は、霧野は生きているのか。
ゆっくりと身体を動かしてスマートフォンをみてみる。霧野とのトークの履歴をみると部活の連絡のやりとりが昨日の日付で終わっている。
大丈夫、あれは夢だから。
分かっているはずなのに胸騒ぎで手が震えそうになる。
《おはよう》
ただそれだけ送ってみた。1分がものすごく長く感じる。夢なんだから、今は現実だから。言い聞かせながら返信を待っていると返ってきた。
《おはよう。どうした、朝から?》
大きく息を吐いて胸を撫で下ろした。よかった、よかったよ。ホッとして返信を忘れ朝の支度を始めた。
それが間違いだった。
数時間後に辛く悲しい霧野の顔を見ることになったのだから。




20210729


 
ひどく傷付いた顔をしていた。オレは何気ない会話のつもりだった。神童の下を向いた様子に耐えられなかった。
「神童はオレがいなくても平気さ。お前はスゴイんだから」
「そんなことないは……」
「大丈夫だよ」
オレは神童の顔を見つめて笑う。世界が明日終わりを迎えるわけでも二度と会えないわけでもない。ただ隣にいないだけ、明日から隣にいて神童と同じ景色が見られないだけ。
「大丈夫、オレたちなら平気さ」
そういって神童の家の前で別れた。明日からこの家に通うことはない。寂しい気持ちを悟られないようにしてオレは夕日が暮れていった方へと帰っていった。
 
 
 
次の日の朝、ブーブーと枕元に置いていたスマートフォンが震えて目が覚めた。オレはうまく開かない目をこすりながらスマートフォンを手にとって画面を確認した。
神童からだった。『おはよう』とただ一言、メッセージが送られてきた。
「ん、どうしたんだ……」
霧野が返信したが、未読のまま神童からの返信はなかった。
「まあいいか、今日から早めに出なくちゃ行けないし」
霧野はそのまま起きて朝の支度を始めた。
この時のことを今でも後悔している。少しでも気に留めていれば何か変わっていたのかもしれない。……変わらなかったかもしれないが、オレが後悔する分は減っただろう。
数時間後、休み時間に一本の電話がきた。神童からだ。なんだろうと電話に出ると、神童は鼻を啜りながら泣いていた。
「な、なんで迎えにきてくれない……」
まるで小さい子のか細く弱々しい声のようだった。
「どうした?!神童?!」
霧野が慌てたが電話はそこでブツリと切れた。






20210731





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