嫌いになりたくないから【いつ純】




※実質振ってますね!
純哉くんがアイドルしてて、いつきがアイドルしてない普通の学生のパロディー設定
お題「この想い、伝えるべきか」


 
心がざわついて純哉くんが今言おうとしていることが分かって、待ってと止めた。
「……なんでいつも止めるんだ。いつき、返事をするなら最後まできいてからにしてほしい」
「違うんです。違う、そうじゃない……。お願いします、待ってください」
腰を折って純哉に頭を下げた。ざわつきすぎて、気持ち悪くなってくる。何度もその気配はあった。仕事でなかなか会えずにいて、久々にあうととびきりの笑顔をみせてくれる。それはアイドルスマイルじゃなくて、本当に嬉しい感情が前面のーーーー。
「結構待ってるだろう、教えてくれよ。いつき。止めてほしい理由を、続きが聞けないのは何故かを」
純哉はいつきの下げていた頭にぽんと手を置いた。
「顔を上げて話してくれよ。少しの時間しか会えないしさ」
「はい……」
顔を上げると純哉の辛そうな作り笑いをみた。ごめんなさいとまた頭を下げそうになる。でも譲れないんだ。
「オレ、純哉くんのファンなんです。アイドル佐々木純哉の……。だから最初にファンとして出会ってしまったから、純哉くんの続きのことに答えられない。オレはファンであり、アイドルの純哉くんをいつまでも応援したい。けれどそれを超える何かにはなれないし、なりたくない」
言いながら手が震えてしまう。純哉は何も言わず、焦らせずに話を聞いてくれた。いつきは大きく息を吸った。
「でも純哉くんのことが好きで、きっと……烏滸がましいですけど同じなんだと思います。純哉くんがオレに向けてくれる気持ちと。だから続きをきいたらこの2つの気持ちを天秤にかけなきゃいけない。ファンとしての気持ちとオレ個人の気持ち。今までだって天秤にかけていた、ですがはっきりとした決定打がないのでどちらでも良かったんです。ファンのまま純哉くんを好きでいられたしそれで良かった。だから止めないといけないんです。純哉くんのファンでいたいし純哉くんの側にいるために」
ポロポロと涙が溢れてくる。手で拭っても目の前は歪むばかりだ。すると、黄色いハンカチがパッと差し出される。
「拭けよ、話してくれてありがとな」
「ご、ごめんなさい…………」
有り難くハンカチを受け取って涙を拭いて、純哉の方をみると未だに笑っている。それはファンに向けての笑顔と同じ気がした。
「もう少し考えような、いつき。オレも考えるわ……」
前にいる純哉の背中がひどく寂しくて、でもかける言葉はオレの中にはどこにもなかった。
いつか見つかるだろうか、この人を寂しくさせない言葉を。




20210728





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