笑顔と匂い【大人照吹】




※付き合ってます!お題「待ってて、すぐにそっちにいくから」



 
バタバタとタクシーに乗り込んで、服を整えながらスマートフォンをみると時間はあと1時間を切っている。
「間に合うかな……。すみません、急いでいるのでよろしくお願いします!」
吹雪はタクシーの運転手に伝えて、持ってきた花束をみた。
向日葵が2つあってピンクと白の花がよく引き立てている。花なんてもらっても困るかもしれないと思いながらもつい渡したくなった。
次に会えるときにはもう向日葵は咲いていない。白い息が見えているだろう。
そわそわとしながら時間をみていたが、結局空港に着いたのはそれから2時間後だった。
「ごめんね、間に合わなくて」
「いえ、ありがとうございました……」
吹雪の肩を落とした様子にタクシーの運転手は本当にすまないと謝りつつ、また次のお客を探しに走り去っていった。
仕方ない、間に合うかどうかは微妙だった。昨日も会って息を交わして明日は会えないかもって伝えてある。仕方ないんだ。
言い聞かせながらも手に持っていた花束が目に留まる。
「どうしようかなーーこれ」
「いらないなら僕がほしいな」
静かな声に心臓が止まりそうになる。ゆっくりと振り向くと照美がニコニコとして手を差し出していた。
「え?あれ、もう飛行機が……」
「んーどうにかなるよ、僕は自分でも飛べるから」
僕には見えていない羽があるかのように照美は自分の髪をさらさらとなびかせた。色落ちした毛先がちょうどよく背中辺りなのできっとあれが羽なのかもしれない。
「《待ってて、すぐそっちに行くから》なんてメッセージくれたのは誰かな?僕は待ってたよ、君を」
もう一度手を差し出した。僕は持っていた花束を照美に渡すととても喜んでくれた。
「いい匂い!色も綺麗だね……あー今年の夏も終わるねえ。楽しかった?」
「そうだね、照美くんと少しでも長く過ごせたから」
すると、照美は手招きをして吹雪を自分の方へと引き寄せた。花束を顔へと上げると、そっと吹雪の頬に口づけをする。
「ありがとう。会ってくれて。会いに来てくれて。それだけで嬉しかったんだ」
花の匂いとともに照美の少し照れた笑顔がとても印象的な夏の終わりだった。
 





20210727





prev next








×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -