陰る心と月明かり【ひいあい】





※付き合ってません。
お題「苦しいのは僕も同じ」



焦る気持ちがミスを増やす。頭の中では分かっていても、どうしたって焦ってしまう。仲間は優しくサポートし、見守ってくれる。きっとこの上のない環境に自分はいるはずだ。それなのに。
「藍良、ここにいたんだ」
寮の庭の人が通らないところで三角座りして、鼻をすすっていたら一彩に見つかってしまった。
「なあに、なんか用なの」
心が不貞腐れてると自分で分かっているから、他人と会いたくなくてここにいたのにわざわざ会いにくるんだからと刺々しい言い方になるのは仕方ない。
一彩は藍良の隣に座って、何も言わずに同じように体育座りをしてこちらを見つめてくる。あまりにもずっと見てくるからこっちも負けじと見つめてみた。
綺麗な瞳が混じり気なしに純粋にただこちらを見つめている。不安や悩みもないんだろうか。同じ新人でアイドルのことはおれが教えないと分からないのに、持ち前のポテンシャルでどんどんと上手くなって輝いていく。磨くのは自分であり、磨き方次第でこんなにもおれとは違うのか。
「いいなあ……」
ぽつりと出た言葉に一彩は反応して、藍良の頬に手を伸ばした。
「いいなと思うのはこっちの方だよ藍良。藍良は綺麗だよ、だからこんな暗闇にいないで。明るい場所で笑ってほしい」
頬を撫でる指先が優しい。その言葉に一つも陰りがない。どうしてそんなことを言うのだろう。おれは今はまだ暗闇にいたいのに、全然晴れの舞台で完璧にできる自信はないのに。
藍良は頬を触っている一彩の手を下ろした。泣きたくなってる感情を一彩は分かってくれるのだろうか、でも分かって欲しいなんてそれこそ甘えなんだ。
歪む視界をグッと我慢して耐えても涙は暗い地面に落ちていく。
「藍良の側にまだいてもいいか。僕がそうしたいんだ」
「か、勝手にすればッ……うう……」
下ろさせた手をおれは離すことはできなかった。一彩もそのままにおれが気が済むまで何も言わずに側にいてくれた。
しばらくそんな状態でいると、不意に手元が明るくなった。
顔を上げると、月が雲間から見えている。と、隣を見ると同じように月を見上げた一彩の横顔があった。さっきみた綺麗な瞳とは違って、不思議と自分と同じような想いで月を見ていると感じた。
「ふふ、ヒロくんも安心したの?明るくなったから」
「……そうかもしれない」
見えなくしていた雲と同じ、自分の不貞腐れで見えてなかった一彩の気持ちにようやく気付いて藍良は笑って繋いでいた手をギュッと握ったのだった。





20210726




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