延長はなしで【蘭拓】




※付き合ってます。
お題「真面目にやってれば報われる?君のこと真面目に想ってるよ」

 
 
霧野が「いいよ」と返事をくれた。まるで買い物に付き合ってほしいという感じに返事がすぐきて、何か勘違いしているのかと思ってしまい、「キスをしてもよいか」と訊いた。そしたら、霧野からキスをしてくれた。
初めてのキスだった。呆気なくもっと印象に残るような出来事だと思っていた。それからも「したい」といえば、霧野からしてくれた。言わないとしてくれなかった。
本当に霧野は俺のことが好きなのだろうか?親友だから付き合ってくれているのだろうか?そうして悩んでいれば、霧野は気にかけて「どうした」ときいてくれた。
俺は言えなかった。もし、長年の付き合いの延長線で「いいよ」と言ったのなら……俺は否定しなくちゃいけない。
霧野のことを延長線で好きになったとは思われたくないのだ。
 
帰り道に誰もいないことを確認して霧野の手を引いて路地裏に入った。
「霧野……キスしたい」
俺がいうと霧野は顔を近づこうとするので、咄嗟に俺は手で自分の口を塞いだ。
「神童?どういうこと?」
「なあ、霧野。俺はお前が好きだ。だからキスをしたいと思っている」
「ああ、だからキスをしようと……」
神童はゆっくりと手を下ろして霧野をじっと見た。
「お前は俺が本当に好きか?俺は真面目にお前のことを想っている」
「…………」
霧野は黙ったまま目を逸らした。やっぱりただ俺が望むから、霧野はしてくれただけ、付き合ってくれただけで霧野は別に同じ想いを抱いていない。
少し涙が出そうなのをグッと堪えると次の言葉が出てきにくい。数分の沈黙と向かい合った体勢が続いた。すると表の道から話し声が聞こえてきた。まずい、この状況が見えてしまうと思っていると霧野は神童の腕を引っ張って抱き締めた。
「き、霧野!?人に見えてしま……」
「見せてやりたいさ、オレがお前のことを真面目に想ってるって分からせるために。欲しいものにもっとがっついて自分を満たしたいさ。だけど、それはお前に悪いよ……こうして抱き締めて同じ速度でドキドキしていることも夢みたいだし」
言われてみれば自分以外の心臓の音が伝わってくる。同じ速度、俺と同じ霧野の速度。まだ知らなかった霧野の音。
「いいよ、霧野。……我慢するな」
報われていないのは霧野の方だと塞がれた唇と舌によって気付かされたのだった。
 




20210724





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