透明な背中【照美←貴志部】





※お題「立ち上がるのは大変なことだよ」


 
敗北したときの胸のあたりが冷えていく感じをすっかり忘れていた。勝つことが当たり前になっていたのはいつくらいからだろう。手から落ちていくなにかを止めることもできずただ目の前の結果をみて足を動かすのだ。
 
「負けるということの大切さを知らなかったんだよ。ただ悔しくて悲しいその想いをどこか怖がっていたんだ」
アフロディ監督がチームのみんなにそう諭していた。悔しいこと、悲しいことから逃げてはいけないよと最後にまとめて解散になった。
「監督!」
貴志部はその場からアフロディに声をかけた。
「どうしたんだい?」
「監督はオレたちが負けたときも同じ感覚になりましたか……?」
アフロディはフッと笑って頷いた。じゃあ!と貴志部は一歩前に踏み出た。
「……一緒なんだ、そっか。じゃあ今度は悲しませないようにがんばります!」
そういうと眉が少し上がって驚いた顔をしている。なにか変なことをいったかなあと思っているとアフロディはありがとうとお礼をした。
「そう想ってくれるのは嬉しいよ、本当は最高のサッカーが出来ればね満足するはずなんだ。だけどどうしても……負けは悲しいからね。ーーその想いを忘れないでね、自分の力になるから」
じゃあねと立ち去る姿に透明な羽生えているようにみえた。まだ飛べそうもない羽に色がまだつかないようにと貴志部は願ってしまったのだった。




20210719





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