「なにそれ!晴矢の馬鹿!」
ブチッと電話を切った。
すぐに会いに行ける距離でもないのに、また喧嘩してしまった。後悔の念が襲ってくる。
「来週気まずいなあ…」
杏は韓国に行った晴矢に毎週電話している。
これにはわけがある。
晴矢が韓国のチームにスカウトされて、半年ほど韓国に行くことが決まった。
「スカウトされたんだってね」
廊下で会った晴矢に杏が声をかけた。
「ああ…」
「ずるいなー私も世界と戦ってみたかったな」
杏が窓の外を見ながら溜め息をつく。
「…戦えるよ」
晴矢が深刻そうな顔で言ったので、慌てて否定する。
「気にしないでよ、軽く言ってみただけ。いつか一緒にプレー出来ない時がくるその『いつか』がきただけだしさ」
にっこりと笑って振り返った。
すると、予想以上に晴矢が近くにいて動きが固くなった。
近い…!
杏が赤くなる顔を隠すため下に向いた。
その上に晴矢が手を乗せてきた。
「戦える。FFI終わったら、オレが韓国代表としてお前と勝負してやる」
どんな表情で言ったか下を向いていたので分からない。
しかし、凛として自信たっぷりな表情で言っているんだと声から想像できた。
「約束だよ。忘れたら頭坊主にしてやる」
少し低い声で晴矢に告げる。
「忘れるかもな。だから…一週間に一回は電話して言ってくんないか?」
「なにそれ、メンドー!それくらい覚えてよ!」
杏が顔を上げて怒ると、晴矢はいいから!と指切りの手を差し向けた。
「約束だかんな」
「そっちこそ忘れたら坊主ね」
こちらも指切りの手を差し向ける。そして、小指を絡ませて常套文句を並べて約束した。
あの時の約束が今になって大切ものとなってる。
寂しくても会いたくても週に一度だけ声をきけるきっかけをもらったのだから。
「来週は謝って…約束のことありがとうっていう」
よし決めたと決意を固めているうちに泣き疲れて眠った。
20110309
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