月の曲は未完成【創作BL】




※お題「きっといい子がうまれるよ」




 
憧れのアーティストがギターで演奏し歌う姿をみて、自分もやりたくて見様見真似で始めた。全然知識がなかったので、楽器屋さんに行くたびにいろいろ教わっていたら店員さんがギターをやっている人を紹介してくれた。
 
「お前ってさ、どうしてそんな飲み込み悪いわけ?」
「わ、分かってるよ……そんなこと。だけど頑張ってるじゃん……」
耳からぶら下がっている大きな月のピアスが揺れてため息をこぼす。男から見ても美形だなと思うそいつは、毎週土曜日の夜に主に公園でギターを教えてくれた。口は悪いが、下手だから見放すなどもせずに親身だなと思う。
ーーーー口は悪いが。
大きな月が俺の顔の前を遮った。練習している曲の楽譜をペラリと手にとって、ササッと赤を入れている。
「にしても、この曲できたらどうするわけ?なんかどっかで発表するの。てか【うた(仮)】って曲名なに」
「……曲名は浮かばなかったし出来てもどうもしないよ」
誰に見せるでも聴かせるわけでもない。ただ俺が満足できたらいい。それだけのためにといったらこの人は怒ってしまうだろうか。
「じゃあオレのために発表しろよ。オレのためにこの曲を完成させろ」
「え……いやそれは」
ニッと笑ってオレの顎をくいっと上げた。顔の近さに思わず目が泳いでしまう。ドキドキと胸がうるさくて早く離してほしいのに抗えない。
「オレを想った曲だ。きっといい曲……いい子が生まれる」
口が悪い以外にも無茶苦茶自分勝手だし、それにいつも心臓に悪い。だから上手くならないのかもしれないと思うほど。
顎から手を離して楽譜も元の位置に戻した。休憩終わりだと言って、練習が再開される。 
この男は知っているのだ。俺がお前に憧れてギターを始めたことも、意識していることも。
それを気持ち悪がらないし、かといって受け入れる気もなさそうだ。この曲が完成したら本当にいい子が生まれるだろうか?とても醜いものにならないだろうか?
「そこ違うぞ」
「すみません」
三日月笑う夜の想いはもう少し先まで考えてほしい。




20210718




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