考えたことないから【ディアドリ】








そんな質問を取材でされて、うまく答えることができなかった。
「そんなに気にすることか?」
純哉はため息混じりにいっているが、こっちは結構真剣に考えているのになとムッとしてしまった。
「だがあの返しは奏らしくてよかったと思うぞ。だから気にしなくてもいいんじゃないか」
慎はコーヒーを一口飲んで優しくフォローしてくれた。それでもまだ気になって仕方ない。
すると、後ろから急にヌッと腕が伸びてきて振り返ると千弦がバチンとウインクをした。
「ダイジョーブイブイ!かなちゃんのファンは喜んでくれると思うし、結局は読者の受け取り方だよ!」
そうですねと向かいに座っていたいつきが頷いて口を開いた。
「あの答えを言った奏くんの気持ちもよく分かるんです。ですが、きっと気にしてしまうのは他にも何か奏くんだけの答えがあるんじゃないでしょうか?《アイドルをしていなかったら。》の奏くんのもう一つの答えが」
うーんとまた悩んでいると、そんなことよりもと純哉が話題を変えた。
「奏のバースデーイベント企画何にするか考えないとな。奏が自分だけよりディアドリみんなでなにかしたいって言い出したんだろ、時間もないんだしさ早く決めようぜ!」
「うん……そうだね」
純哉の言うとおりだと奏は頭を切り替えた。
 
ーー仕事が終わり、家に帰って速攻ベッドにダイブして今日の取材のことを思い出した。
 
アイドルをしていなかったら。

考えたこともなかった。というか考える暇もないくらい目まぐるしく忙しかったし、今はもうアイドルをしていない自分は考えられない。
あの時も『みんながオレをアイドルにしてくれたから。していなかったらとか考えたことなかったです』と答えたのだ。
アイドルになりたい!と最初から事務所へと入ったわけでもなかった。しかし、アイドルの活動を知るたびに身体が、心が熱くなってステージが好きになった。オレのパフォーマンスで輝くみんなの笑顔が大好きになった。
きっとアイドルをしていなかったら、見られなかった光景だ。

アイドルをしていなかったら、オレは誰かを笑顔にさせることがこんなにも楽しく熱く最高超えるものだと知らなかったかもしれない。
だからこれからもーー。きっと。

ブーブーと手元にあったスマートフォンが鳴った。
《今日決まった案でバースデーイベント、頑張ろうな!きっとお前の気持ちがファンに伝わるイベントになる》
純哉からだった。あの時は適当なことを言っていたのに、結局気にしてくれていたんだなと分かって笑ってしまう。
そこからブーブーと通知が鳴り、他のメンバーからもコメントが繋がっていく。
ああ、大丈夫。きっと素敵な誕生日になると奏は笑った。


20210715





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