晴れた空は遮ってもくれない【奏慎】






※付き合ってません。お題「吸って吐いて」




 
突然の激しい雨がドドドドドッと音を立てて屋内に居たにも関わらず声をかき消すようだった。
「慎くんは苦しくないの?」
「苦しい……?どうしてだ」
そういえば奏は雷が苦手だった。今のところ雷の音は聞こえてこないがそういう意味だろうか。
奏は一瞬躊躇って笑顔を見せた。
「ううん、なんでもない。慎くんがそれでいいならいいんだ」
トントンと楽屋をノックされ、スタッフが確認したいことがあるからと奏だけ呼び出された。
慎は手元にあるドリンクを飲みながら、先程の問いをもう一度考えた。
オレは今、何が苦しいのだろうか。強いて言うなら……オレが奏への気持ちを伝えていないことだろうか。多分もう伝えることもないと思っている。
ステージの上でキラキラと多くの人に笑顔を届ける奏をみていたら、それは出来ないと口はしっかりと閉じた。出来る限り、この姿を隣で見ていければ十分だ。万が一に思いが通じ叶うかもしれなくても、今のままを選んでしまうオレは本当に前進しているのだろうか。
隣にいたいと思っていた奏の背中ばかりみることにならないだろうか。
 
それはーー苦しい。
 
ガチャリと楽屋のドアを開けると身体を思いっきりビクッとした。
「慎くんただいま……あれ寝てた?」
「い、いや……なあ奏、オレが苦しいといったらお前はどうするんだ?」
雨はいつの間にか弱くなっていて通り雨のようだ。奏はそうだね、と一度息を静かに息を吸って吐いて笑う。
「オレも苦しいからもう終わらせようよっていうかな、あのね慎くんーーーー」
聞こえてきた奏の言葉の続きこそ激しい雨でかき消してほしかった。
雨の音も小さいこの部屋にはよく響いて聞こえてなかったなどと言い訳も出来ない。
忘れていいよと奏はいうが胸の痛みは確かにある。その答えもオレは分かってる。 
 
仕事が終わったあと、テレビ局を出たら綺麗な虹がかかっていて目を逸らしたのだった。




20210712




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