特別を知らない人【蘭拓マサ】




※蘭拓は実は付き合ってません。狩屋はその二人が羨ましい。
お題「溶けかけのソフトクリームを飲み込む」




蝉の声が廊下にいても聞こえてきた夏休み手前の話だ。
「狩屋ー!先に行ってるよー!」
「うん」
そういってバタバタと天馬たちは教室を飛び出していった。そんな慌てなくても部室は逃げはしないが、明日から夏休みとあってテンションが高いのはオレも一緒だ。今年の夏終わりには中学生以下限定のサッカーの世界大会が行われる。その日本予選決勝まで残り日数もないのだ。
日直じゃなければオレも天馬たちと共に行ったのだが、日誌が書き終わってなかった。
「書くことないんだよな」
カチカチとシャープペンシルの芯を出したり入れたりしながら、最後の一言に悩んでいた。
《明日から夏休みで嬉しい!》とか?それだと子どもっぽいか。受験生らしく、《夏休みも受験勉強頑張るぞ!》とか?いやそんなキャラじゃない。
ふと窓の外から校庭を眺めると晴れやかな顔をした生徒たちが校門へと歩いていく。今日もいい天気で暑そうだ。たらりと流れた汗が日誌の側に落ちた。
「ーーッ!あっぶな……」
間一髪で避けているとチカッと頭を過ぎった。あの日の夏の光景を思い出した。
「センパイたち元気にしているかなあ……」
 

去年の夏、誰もいないと思ったのか、部室で二人が楽しそうに話していたこと。時折手を絡ませて顔を近付けて、おでこを合わせていた。
隙間からみていたオレは固まってしまい、動けなかった。自分の顔から流れた汗がピチャっとほんの僅かな音を立てて床に落ちた瞬間に、ハッとして気付かれないようにそっとその場を立ち去ったのだ。
気を紛らわそうとその後で買ったソフトクリームが溶けて手がベトベトになるまで、オレはボーッとしていた。

幼馴染み、ときいていた。それは特別に仲が良いということだろう。その“特別”って、どういう意味だろう。考えてもうまく言葉に出来なかった。
それからオレは何もできずにセンパイたちは卒業した。
笑うしかないのだ、“特別”が分からなかった。けれど、きっとオレはその“特別”に混ざりたかった。
 

 
《蝉の声が今日もうるさいですが、何かを伝えようと鳴けることは羨ましいと思いました。》
「これでいっか。そんな先生も深く考えないだろう」
書き終えた日誌を閉じて、狩屋はカバンと日誌を手に誰もいない教室を走り出た。
 


20210709




prev next








×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -