あげるよ【創作】




※カプ要素もなにもない

腹が空きすぎて死にそうだ。誰しもそう感じたことはあるだろう。
「おにーさん!お腹すいたの?」
一人暮らしのそこら辺に缶ビールが転がっているところに細い足が見えた。べとべとと顔に貼り付いた伸びっぱなしの前髪をかき分けて見上げると、白い肌の少年が笑みを浮かべている。
幻覚だろうか、まあいいか。
「ああ、お腹が空いているんだ。少年もそうなのか?」
「ううん、僕はお腹空いてないよ!じゃあ、これあげる!」
少年はしゃがんで寝転がっていたオレに小さな饅頭を差し出した。少年の手のひらサイズだがオレには一口サイズだなあと思った。
「食べていいのか?」
「うん、いいよ!あげる!」
そうかとオレは饅頭をもらった。これは夢なのだろう、現実のオレは一人暮らしなんて今はしてないし妻と子どもがいる。一人暮らししていた時代の夢を見ているだけだ。
なんとなく思い出した頃、饅頭の甘みが空っぽの胃に染み渡っていった。
「ああ美味しい、ありがとな」
少年にお礼をいうと彼はオレに手を振ってどこかに行ってしまったのだ。
 

 
ーーハッと目を覚ました。周りを見渡すとそこは病院で近くの手術室の赤いランプが消えた。ドッドッと心臓が騒ぎ立てて、よろけながらオレが手術室に近付くと扉が開いた。
中に入っていた医者や看護師が厳しい表情を浮かべている。
「どうぞ、こちらへ」
息をしていただろうか、最後の宣告をきいてオレは医者になんて答えただろうか?
夢に出た少年の顔に白い布がかけられていた。
それはよく考えなくても分かる、離婚して妻に連れていかれた自分の息子の顔だったのだ。




20210708




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テーマ「人外ファンタジー」
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