真っ白な鶴が舞った。大きな音を立てて、涙で霞みながら私はただ見ていた。
私は今まで何してあげた?手に持っている飛行機のチケットを見ながら考えた。
ただわがままを通していただけじゃないか。そんな思いがぐるぐる回る。
あの時彼は笑っていた。苦笑いで言ってみただけだよって。そして私にあげたチケットを指差した。
「君が他の人を好きになったら破って捨てて。もしも…こちらにくる気になったらそのチケット持ってきてほしい」
私は何も言えずうなずきもせず、ただ泣くだけだった。
付き合って三年の彼が外国へ引越しするときいたのは三週間前である。
事情があるにしても納得出来なくて嫌だ嫌だと駄々をこねた。彼は私に一緒に外国へ住まないかと言った。
あれはプロポーズだったのかもしれないが、その時は分からなくてそんなこと無理出来ないと即答した。
傷ついた顔で彼はそうだねと言った。
そうだよ、傷つけた。なのに私は気付けなくて自分の憐れさばかりに囚われてた。
馬鹿だ。なんてことを。
涙を手で拭った時、薬指に付けてた青色の指輪がキラリと光に反射した。
「目の前が見えなくなったら目を閉じて。周りに悟られないように。そうすれば自分を信じていけるんだ」
落ち込んでいた時、そう言われて一瞬で恋に落ちた。
「なんで忘れてたんだろ」
彼は教えてくれていた。私に沢山残してくれた。それを拾わずにただ置いていった。彼を大切にしなかったのはなぜなの。自問する。いるのが当たり前だと思ってたからだ。あなたがいないと私ダメだって分かっていたのに、私が嫌だ嫌だ言ってれば彼は残ってるとか思っちゃって…。
「行かないでよ…」
自己嫌悪の波に揉まれて今にも押しつぶされそうでSOSを出したい。
誰に?彼にだ。
最後に彼がいった言葉を思い出した。
「君は君らしくいて」
「それだけは胸に刻まなきゃ」
グシャグシャな顔でいつ間にかグシャグシャなチケットを空にかざした。
鶴が舞った跡が綺麗に伸びていた。
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飛行機/aiko をイメージ
切ない曲ですが是非聴いてみてくだされば嬉しいです
彼の言葉後半の二つは歌詞からです
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