叶わない【ちづ→いつ】





※片想いです。
お題「僕は君が好きだよ」


 
大きな竹に括り付けられた赤や黄色の短冊が風に揺れている。その下には保育園の子どもたちがキャーキャーと楽しそうに走り回っていた。チヅと帰りながら、そういえばと思い出した。
「今年も短冊飾りがあるんだね、チヅの家の前」
たまたま実家に戻った際に、飾られていると家族に言われて帰る途中でちらっと覗いたのだ。
「うんそーだよー、でも今年の七夕は大雨が降るみたいで……ショボボボンだよ……」
がっくりと肩を落とすチヅにそうなんだとなんだかこちらも悲しくなってきた。昔は、チヅの家の短冊飾りにまぜてもらって自分も願い事を書いたものだ。どんな願い事だったかはよく覚えていないけれど、きっと《三神さんのようなアイドルになりたい》とかそんな感じだと思う。チヅは毎年毎年変わっていくけれど、本当に叶えたいと思う願いは書かなかった気がする。オレが見る限りは、あの短冊飾りにユヅの願いがあったことはないのだ。それを寂しそうに思っているところを何度も見ていた。
ーーけれど、今年はどうだろうか?
奏くんのおかげでユヅとのわだかまりがだいぶ溶けたように思う。なら今年の願い事は……。
「……ねえ、チヅは今年なんて願い事にしたの?」
「えーっとね、《ディアドリで富士山でライブをするぞー!》って書いたよーー!」
「あはは、チヅらしい……」
予想通りの願い事に少し笑っているとチヅのほっぺたが膨れた。
「ムウ!笑うことないでしょ!ーーじゃあいっちゃんなら何を願うの?」
「俺?俺は……」
なんだろうか、自分の夢は出来るだけ自分で叶えたいから今は《三神さんのようなアイドル》ではない。じゃあ……。
「ディアドリが5人でずっと輝いていますように、かな」
「ーー素敵だねだね!さっすが!」
一瞬固まってそれから優しくチヅは微笑んだ。そうかなと照れていると、チヅの表情が曇っている。
「どうしたの?チヅ」
「……ううん!なんでもないよ!ただ七夕の日、雨なんてやだなーって」
「そっか……」
いつきが歩き始めると、1テンポ遅れてチヅも歩き出した。
 
「ーー本当は《いっちゃんがボクだけをみてほしい》なんて願い事は、雨に流された方がいいんだ」
ぼそりといった千弦の独り言は先に行くいつきの耳には届かなかった。





20210707





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