美味しい食べ物とそうじゃないもの【基緑】



※付き合ってません。
お題「苦しいのは僕も同じ」


誰かが付き合っているとか付き合っていないとかそんな話を周りから聞く度にため息が出てしまう。どうでもいい、興味ないといいつつも本当は知りたいことはあるのだ。
好きな人が男だったと自覚したらそういう話題が怖くなった。誰かに相談したいが、誰に言えるわけでもなく燻って黒い煙が出そうになるから火を弱めて、このまま燻製にしてしまおうかとぶすぶすと心の下の下に見えないように隠している。

「緑川、ここにいたんだ」
公園の滑り台の上にいたオレにヒロトが下から声をかけた。なにか姉さんに頼まれたのかビニール袋をぶら下げている。
ーーいいな、こっちの気持ちも知らずに悩まないで。
「なんだよ、こんなぶらつくなというつもり?もう子どもじゃないから心配しなくてもあと少ししたら一人でちゃんと帰るよ」
ああ黒い煙が少し出てしまった。歯に力が入って滑り台の上でしゃがみ込んだ。こんなつもりじゃない、何もヒロトは悪くないのに当たりたくない。
ガタンガタンと後ろから音がした。音の振動と自分の心臓のドクンドクンとした音が重なって立てなくなる。燻って焦がして苦い。こんなヒロトを想う美味しくない気持ちなんて捨ててしまいたい。
足音が止まって後ろにいるのが分かる。聞こえるのは自分の心臓の音だけだ。
「緑川、オレの何が嫌だった?教えてほしいな」
ふわっと美味しそうな匂いが鼻をかすめて、ヒロトの声が降ってくる。恐る恐る見上げれば微笑んでいるヒロトがいた。……微笑みながらも少し怒っているみたいだ。パッとまた顔を下げた。
何がイヤだった?何もヒロトの嫌なところはなかった。
黙っていると、ビニール袋の擦れる音が聞こえて先程の美味しい匂いがより強くなった。
美味しい匂いはそれを求めるものを刺激して、自分の気持ちを察せずにグーッと勢いよく鳴った。
「うーーヒロトの意地悪。なんで唐揚げなんて持ってるの」
オレは観念したかのように渋々立ち上がり振り返るとグイッと匂いの正体を差し出された。
「お腹は素直だったね。買い物ついでに買ったんだよ、2つあるから一緒に食べながら帰ろうよ」
仕方ないなあと唐揚げを受け取るとヒロトはフフッと笑った。それをきいたオレがムウと膨れるとごめんとすぐ謝った。
「緑川って可愛いなあと思って……。本当にごめん」
「いいよ、唐揚げで許すよ」
 
滑り台を降りて公園を出るとヒロトは今日あったことを話し出した。先日クラスの子に告白されて断ったけど一度でいいからデートしてほしいと言われて、今日してきたこと。でも全然面白くなくて、その女の子も自分が思ったような感じとは違ったらしく改めて断ったら素直に応じてくれたこと。
全部オレが知りたかったことであり、今日ずっと燻らせていた原因だ。
「なんかその子が可哀想に思えてさ、オレがどうアプローチされても全く何もこないから。ああ本当に、」
続きを言おうとしてヒロトは笑い、緑川の方に肩を寄せた。
「なに、ヒロト」
「唐揚げ1つちょうだい」
「仕方ないなあ、ほら」
と爪楊枝で差し出すとヒロトは爪楊枝で受け取らずにパクンと口に含んだ。そういうことするとは思ってないからびっくりしていると、ヒロトは唐揚げを飲み込んでぼそりといった。
「美味しいよ、緑川。優しくてありがとう」




20210703




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