でんでん【蘭拓】



※付き合ってるはず。神童が虫が苦手で、霧野はそうでもない設定です。




帰り道の保育園から聞こえた童謡に足を止めた。跳ねるようなピアノの音に小さい子の元気な声が重なってこちらまで楽しくなるようだ。
「そういえば小さい頃に神童がオレにもわかる曲を演奏してくれて歌ったことあったな」
なんて曲名だったろうかと思い出そうとしながら再び歩き始めた。雨上がりに出来た小さな水溜りを避けながら、あと少しで出そうだと当時の思い出を振り返った。

神童が楽しそうに弾くのを見ているのが昔から好きだった。今はそれが当たり前だからいいが、最初の頃はすごく気を遣っていて自分だけが弾いて楽しんでて悪いと思っていたようだ。
「きりのもピアノひく?」
「え、いいよ!おれひけないし……しんどうがひいてて!」
「でも…………あ!そうだ、これしってる?」
そう言って弾き出した曲に覚えがあった。そうだ、あの日も雨が降っていて帰る頃には雨が止んでいた。やっと曲名思い出した。
 
「霧野」
声をかけられて前を向くと神童が不思議そうな顔をしていた。手提げ鞄を持っているからこれから何か習い事だろうか?
「あ、神童。今からどこか行くのか?」
「いや、そうじゃない。俺は逆に今帰ってきたところだ。さっき車ですれ違ったんだがやっぱり気付いてなかったみたいだな」
全然気付かなかった。なるほど、だから会ったときに不思議そうな顔をしていたんだな。
「考え事をしていてたから見えてなかった。ーー神童覚えてるか。こんな雨上がりにお前がピアノを弾いてオレが歌った童謡」
神童はああと頷いた。覚えてくれたことに少し安心する。
「かたつむりの歌だろう?……帰りに霧野が手で捕まえてたよな」
「あーそうだっけ」
「そうだよ、あの時……いやなんでもない。なあ手を繋いでいいか?」
急に神童は手を差し出した。別に断る理由もないからその手を繋いだ。すると、神童は嬉しそうに微笑んだ。
「これから俺の家に来るだろう?また歌ってくれるか」
「えーーいいよ、それより雨上がりにあうオレの知らない曲を弾いてくれ」
「分かった」
二人はよく晴れ渡った空を見ながら歩き出した。

  

20210702




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